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2006年2月 7日 (火)

啓示空間 (Revelation Space)/アレステア・レナルズ

啓示空間/アレステア・レナルズ 著、中原直哉 訳

啓示空間/アレステア・レナルズ
  早川書房:東京、2005/10
  1039p;16cm
  (ハヤカワ文庫;SF1533) 
  ISBN 4-15-011533-8
  定価 1400円
  NDC(9): 933.7

帯情報

その内部には「啓示空間」があり、驚異の科学技術が隠されているといわれる謎の空間シュラウドからただ一人生還したダン・シルベステは、リサーガム星で異星種族の遺跡を発掘中、その滅亡の原因を解く鍵として、中性子星ハデスを差し示す手がかりを得るが……99万年前の異星種族絶滅の謎、巨大ラム・シップ内の暗闘、中性子星に隠された秘密などを背景に、人類の存亡をかけた戦いをグランドスケールで描く迫真の宇宙SF!

Mu注記

 まず重い。一千頁を越える文庫というと、魍魎の筺/京極夏彦、クラスである。Muは寝読しかしないのだが、夜半10時を過ぎると突然顔面に落ちてきたことがたびたびあった。遅読なので、おおよそ実質一週間程度かかったようだ。普通の人でも、丸一日は必要だろう。

 で、秀作である。このての重くてハードでしっかりしたSFは久しぶりだった。なんというか、驚愕し続けたので、無事読み終えたときは、ほっとした。一見して冒険もののように思えるが、謎がちりばめられていて、ミステリと考えてもおかしくない。途中でいろいろな伏線があって、あとで気がつく。

 啓示空間という翻訳タイトルは、あたっているともいえるし、もっと宇宙全体に思いをめぐらす象徴ともいえる。ただ、言えることは「宗教」を完全に凌駕した、彼方の話、空間だということだ。と言っても、小難しいへりくつ、変に哲学的な内容でもない。

 登場人物が皆々変わっているので紹介しておく。彼女ら、彼らがすさまじい活劇と推理をサイバースペースの中、深宇宙、巨大な宇宙船のなかでくりひろげる。
 まず宇宙船は、Nostalgia for Infinity(無限への郷愁号)と言って、その大きさが、エレベータの階数は1500階ほどで、シャフトの長さは4キロある。収容人員はMuが数えただけでおおよそ30万人、しかしそこに乗っているのは、「委員会」と呼ばれる3名と、百年以上病床(ウィルスによって機械と有機体とが融合し成長する癌)に伏す船長一人。あと補助員が2名程度。今は、残りはすべて船体そのものとネズミロボット、幾つかの原始ロボットだけが船内を操作している。勿論、船体は最高度のロボットで、攻撃を受けると自分で治療し、直す。また、何年かおきに、設計を変えて船型まで別のものになるという、ものすごさ。

 以下下線付きが通称。
 主人公は、ダニエル・シルベステ(男)。考古学者であり、政治家。
 パスカル・デュボワ(女)。ジャーナリストで、シルベステの手伝いもしている。
 カルビン・シルベステ(男)。ダニエルの父親でサイバネティックスの宇宙的権威だが、現在はシミュレーションとしてコンピュータの中に生息している。つまり生身の肉体は遠い昔に消えている。だが、息子シルベステにとっては、なくてはならないケンカ友達で、かつ軍師。

 巨大な宇宙船の中心人物三名は、なぜか「船内三人委員会委員」と呼ばれている。船長は、あまりでてこない、そこが謎。
 イリア・ボリョーワ(女)。船内軍事部門担当エキスパート、最強。しかも、船内コンピュータを腕にはめたパッドから自由自在に操る技術者。名目上の委員ランクは、三番目。
 ユージ・サジャキ(男)。副船長だが、最高の権限を持っている。ヘゲモニーはサジャキにあって、強烈で異質な存在。ウルトラ属という、一種の派生人類か(?)。わかりやすくいうと、肉体の数割を機械化したサイボーグ。だが、次ぎに述べるヘガジほど外見は異様ではない。翻訳のセリフ回しが、江戸時代の虚無僧に擬してあり、事実ときどき虚無僧姿で異星の町中に潜入潜伏する。善悪のない、しかもボリョーワでさえ命令に服さざるをえない、不気味な副船長。
 アブデュル・ヘガジ(男)。副船長サジャキの副官のような立場。しかし、同じウルトラ属でも、噂では脳までサイボーグ化しているといわれるほどの、全身が機械とかわらない委員。

 アナ・クーリ(女)。マドマワゼルという闇の女王の恫喝で、無理矢理ノスタルジア号の補充兵員として送り込まれる。砲術士官として、ボリョーワのもとで働くが、この女が意外に節目節目、重要な役割を果たす。

 というわけで、全編を覆う宇宙史観と合わせて、登場人物がいずれもすさまじいキャラクターを持っている。しかも、ハードコアSFとしてごまかしが非常に少ない。背景に理論物理、宇宙物理の数百年後を想定し、その中で彼ら、彼女らが動く。作者レナレズはイギリス生まれの人で、天文学博士号を持っているらしい。最近まで、欧州宇宙技術センターで働いていたが、作品がいくつか評判になり賞もとって、2004年に退職し、専業作家となったよし。

 最大の謎は、……。なぜ、シルベステは危険を冒して、中性子星ハデスに目指すのか。ノスタルジア号の航行目的は何なのか。なにしろ、冬眠を繰り返しながら、百年単位の航海なのである。

 お奨め度、このて好きな方には、100%。見向きもせぬまま生きてきた御仁達には、そうですなぁ、5%程度でしょうかね(笑) 後者の理由は、けっこう難しい背景宇宙論の中で、謎が謎を呼ぶ作品だから、ある程度、この手のインテリジェンシーと、リテラシーとがないと、読めないでしょうね。

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