« パフェ饗宴 | トップページ | 出雲研究会2004と「月の蔵人」 »

2005年11月20日 (日)

NHK義経(46)しずの舞

承前

 今夜の義経は久しぶりにすっきり見終わった。なんとなく、これで最終回まで続く予感さえした。
 いくつかあるのだが、やはり靜御前の「しずやしず」の舞と、政子との駆け引きであろう。

 「芳野山峰の白雪ふみ分けて入にし人の跡ぞ恋しき」
 Mu訳:あの日、吉野山の白雪をふみわけて逃れた義経さまが恋しい。

 「しづやしづ、賤(しづ)のをだまきくり返し昔を今になすよしもがな」
 Mu訳:糸巻きをたぐり寄せるように、むかし「靜、靜」と呼んでくださった義経さまを、もとにたぐり戻せたらどれほどよいか。
 
 史上、靜は鶴岡八幡宮の若宮(下宮)回廊で、頼朝・政子を前に舞ったという。吾妻鏡の記録である。
 今夜のドラマでは、頼朝ではなく、回りの御家人衆が、逃亡者を慕った舞歌に憤然としたが、政子が「よろしい」と一喝したことになっていた。
 これは一つの見せ場であった。Mu従前の筆法なれば、様式美の極みでもあった。

 この世には男達の心意気だけではなく、おんな達の女伊達もある。
 まず、都随一の白拍子、逃亡者義経の愛人、その女・靜とくれば、これはかけねなしのスーパースターである。超然と輝いていたであろう。そのうえ、立て烏帽子に水干、太刀となると、まさしく男装の麗人。この倒錯した美しさは、当時の鶴岡八幡宮に光をもたらしたはず。

 一方、政子といえば、今をときめく最高権力者の参謀ともいえる女性だった。人心をつかむこと、生き方を示すこと、すべてにあって並の女性とは異なった感性をもっていたに相違ない。
 愛人義経も、その子も、総てを剥奪された靜にたいして、この政子がどう振る舞うのか。あるいはどう振る舞うべきなのか。それが伝承にも、今夜のドラマにも、一つの「女の心意気」として表現されていた。
 若き日の流人頼朝と政子とは、せんじ詰めれば、眼前の靜と義経との関係に逆転していた可能性すらあった。
 だから政子は、腹を据えて義経をかばい通した靜の舞を、あっぱれな女と称揚した。

 史実は誰にも分からない。吾妻鏡がそのように録し、伝承がそのようになった。
 その筋の通った美しさを、今夜のドラマは、輝く舞扇と、靜の目元であらわし、紅葉を散らした。
 大河ドラマとは、かくあるべきである。

 それにしても、作者宮尾さんの力なのか、演出の力なのか、今年の義経は多くの女優を開眼させた思いがする。今夏は能子(よしこ)が筆頭にあげられ、今夜は靜がそうであった。ただ、女優にとっても見せ場を持つというのは幸せである。場があってこそ、演じ没入できる。

 一言で言えば。目であった。目の動きに靜が生まれた。
 その動きに若さがあった。
 頼朝や政子の重厚な目の動きには及ばない。及ばない、稚拙さの残る、その上目遣いこそが靜の痛々しさと芯の強さを若さとして表現し得た。
 よかった、なあ靜さん。

 さても義経主従。
 近江から越前。この逃避行でやっと安堵した。来週は安宅の関とな。山伏姿。似合っておりました。

 なお、Muは吉次が提供した隠れ家の場面が気に入った。障子を開ければ船が着く。この設定がよい。高瀬川はたしかまだ無かったはずだから、どこだろう。堀川あたりかもしれない。為体の知れない吉次の力に保護されている安堵感があった。

 佐藤兄弟はかくして平泉から遠く離れたところで死んでいった。悲しい物語でもある。
 靜の墓は全国にあると聞く。和泉式部や小野小町伝説と同じく、伝承を全国に伝え渡った女性達がいたのだろう。知らず。

|

« パフェ饗宴 | トップページ | 出雲研究会2004と「月の蔵人」 »

NHK義経」カテゴリの記事

コメント

全く同感です。
さとみちゃんいいな、と始めて思いました。

静役は広末さんではダメでしたね。

本当に儚くて切なくて感動しました。

投稿: reyco | 2005年11月21日 (月) 12時22分

アットいうまに、時間が過ぎていました。
義経と弁慶が初めて会った五条大橋のシーンも綺麗かったですが、それ以来の美しさでした。今まで続けて観ていて良かったと思いました。静と紅葉と義経が、みんな舞いました。見事なシーンでした。
本当に女性が目だって、どちらかと言えば義経がたよりなくて、頼朝が政子の言いなり、と男性がシャントしない物語のように私も思います。

投稿: hisaki | 2005年11月21日 (月) 15時00分

reycoさん、2005年11月21日 午後 12時22分

 コメントありがとう。
 生身の女優さんのことは詳しくないのですが、昨夜の静さんが光っていたのが、よく分かりました。赤子がすぐにいなくなるのは、発狂に近いことだったろうと、想像できました。上手でした。

投稿: Mu→Reyco | 2005年11月21日 (月) 16時51分

hisakiさん、2005年11月21日 午後 03時00分

 此の世の半分は女性ですから、男性がシャンとしすぎの表現もある意味でいびつだったのかも知れません。
 来年も、千代さんがめちゃくちゃ奮闘するはずですから、新撰組!の後は、バランスの上からも二期連続「女」世界でしょうね(笑)

 現代女性もシャンとするべきですね。
 ただマスコミの影響もありますが、ちょっとシャンとすると、その内容が条理を無視した発狂状態で、「破壊」する傾向もあります。

 これは女性にとって負の遺産になるでしょう。条理・情理をわきまえた女性の多数でることを願います。

 Muは、男として、男ゲーム世界に疲れておりまする(笑)。

投稿: Mu→HIsaki | 2005年11月21日 (月) 16時59分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/22035/7235408

この記事へのトラックバック一覧です: NHK義経(46)しずの舞:

» 義経(第47回) 「しずやしず」 [40代の私にとっての最新情報・重要ニュース]
先週の視聴率は16.3%。一時の12%前後の低迷からは完全に脱した。大河ドラマのノルマは20%と言われているが、壇ノ浦以降、落ち武者物語的要素が強くなった、このストーリーでは16.3%は大健闘と私は思う。 今週は静(石原さとみ)の最後の見せ場、「しずやしず」。さとみちゃん1...... [続きを読む]

受信: 2005年11月21日 (月) 06時47分

» しずやしず [人生大成功途上~26歳小悪魔になる~]
「吉野山 峰の白雪ふみわけて 入りにし人の あとぞ恋しき」 「しずやしず、しずのおだまきくりかえし、 むかしをいまになしよしもがな・・・」 吉野の山でお別れした義経様が恋しい。 義経様に静よ静よと呼ばれていたあの頃 を糸巻きを巻くように引き戻したい。 儚... [続きを読む]

受信: 2005年11月21日 (月) 12時21分

» NHK義経(47)安宅ノ関・勧進帳 [MuBlog]
承前 安宅ノ関址(石川県小松市安宅町)地図  今夜もほっとした。義経記(ぎけいき)から、能の安宅が生まれて、勧進帳になったり、浄瑠璃にもなって、安宅物。判官贔屓 [続きを読む]

受信: 2005年11月27日 (日) 21時40分

« パフェ饗宴 | トップページ | 出雲研究会2004と「月の蔵人」 »