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2005年10月 1日 (土)

英雄:ヒーロー

 事情で終日ごろごろしていたが、午後あたりからなにか気持が動き出して、ついに以前流行った「ヒーロー」という映画に埋没してしまった。

 この映画は、どっかで(ふうてん老人日記かな)、ふうてん爺さんも褒めておった。爺さんは最近、中国や朝鮮の映画・ドラマは古い日本の映画を参考にしているから、その原点を極めるともうされておったようにも思うが、記憶が定まらぬ。

 で、映画「ヒーロー:英雄

 森に囲まれた鏡面のような湖の真ん中に「飛雪」の亡骸があって、思念の中で残剣と無名とが戦う。このシーンは良かった。

 最初の出だし、異様なカラスのような礼装を着た官人数千人が、質実剛健の極みのような大宮殿前広場に整列し、稀代の剣士「無名」が大王(後の始皇帝)に謁見するのを見守るシーン、まあMuはこれで度肝を抜かれた。

 途中から「剣」の篆書のような古い文字を背景にぶら下げた王座の、その独特の、日本とも、華美中華清朝ともことなる、古式中国のデザインに、Muはひれ伏した。

 中装備の槍騎兵、重装備の歩兵、超弩級、脚で弓を押さえ引く強弓、数千の数万の矢が空を固まって飛翔するさま。秦がどれほどの強兵を束ねていたかを、はじめて眼前に深く味わった。これでは、合従[連衡](がっしょう[れんこう])しても、秦一国に勝てなかっただろう。

 巨大な円形図書館、簡柵(木簡、竹簡)の山。ああ、往時の図書館は、こうであったかも知れないという、新鮮な驚き。

 無敵の女剣士「飛雪」の、枯れ葉舞うごとき、舞剣の流麗。
 義侠心、秦王の涙、男女の嫉妬と憎悪と愛の深さ。八歳から「旦那様」残剣に養われ美しく成長した侍女の切なさ。

 こういう映画は始めてだった。大昔、スターウオーズに接し、宇宙船がぼこぼこで汚れていることに迫真を味わったが、それ以上の壮大な異文明の迫真に圧倒された。

 映画の内容は周知なので、ことさら記すことはないのだが。
 というよりも。
 これは、精巧なミステリー。
 
追伸
 主要な俳優は全部気に入った。これは珍しい。中で一人というならば、まよった末に主人公の「無名」。
 次が、残剣。次が意外にも、秦王。
 女優は、おふたりとも良かったが、Muの好みからなら侍女。
 ヒロインの飛雪は頼もしいが、そばにおくと、何十回殺されるか分からない、殺気。

再伸
 中国を知らないせいもあって、悪い中国の姿ばかり入ってくる昨今だが。
 こうして古式中国をビジュアライズすると、なるほど、紀元前200年代でこうなんだから、隋や唐の前に、周辺国がひれ伏したのもようわかる。ちょっと、勝てないような文明の頂点、それを支える人海。
 なにがあっても不思議じゃない国と、思った。
 それはつまるところ、恐ろしい、底知れない恐怖も味わうところである。

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映画の余香」カテゴリの記事

コメント

張芸謀(チャン・イー・モウ)の英雄(ヒーロー)

 2003年9月7日の(ふうてん老人日記)で触れていますね。
トラックバック出来ないので、長いけど一部引用してみます。

英雄(ヒーロー)を見た篇

 金曜日に女房と立川のシネマシティで張芸謀(チャン・イー・モウ)の英雄(ヒーロー)を見た。
爽やかな印象が残った。
映画の話を、退屈だろうけど少ししてみたい。
・・・・・・・
 張芸謀(チャン・イーモウ)という中国の監督がいるということは2年前くらいに知った。
当時日本でも話題になっていて、テレビで取り上げられていた。
古い時代(といっても近代)の中国の農村部の因習的な世界に生きる男女の苦悩をテーマとした映画をリアリズムと色彩を使った象徴的な手法で描くので有名になった。

 1950年に西安で生まれたという。
この(英雄)は彼が初めて取り組んだアクション映画であり時代劇映画の一本である。
三人の刺客を倒した最後の刺客が始皇帝と対する、というのがストーリの骨子となっている。

 予告編やメイキングをテレビで見て予想していた通り、或いはそれ以上だった。
見事な(映像詩)となっている。
諸氏にお勧めの一本であることを断言出来る。

 役者がみんないいんですね。
いい顔をしている。
動きが引き締まっていて俊敏で無駄がない。
今の中国のエネルギーを感じます。
日本も、さよう、40年くらい前はこういうエネルギーに満ちあふれていたんだけどなあ。

投稿: ふうてん | 2005年10月 2日 (日) 02時12分

ふうてんさん、 2005年10月 2日 午前 02時12分

 一晩寝て起きても、ヒーローのシーンがくっきりと浮かんできます。

 構成としては、映画・羅生門(羅城門じゃないのでしたね)と似通ったミステリアスな内容でした。

 命の積み重ねで、しかも冒険映画小説とは違って、確実な死の積み重ねで目的を達成するという、怖さがありました。

(大体、娯楽作品は、主人公達が運がよくて巧くやったら、助かるかもしれないところに、スリルとサスペンスを導入するでしょう)

 それといくつか。

 空を飛ぶシーンが沢山ありましたが、もしかしたら古代はそうだったのかもしれないと、ふと信じたのです。

 秦王が武芸に秀でていた設定はよかったですね。当時は口舌だけでは、回りがうごかなかったのでしょう。

 砂箱の砂に文字を書いているのをみて、驚き感動しました。そして「剣」という文字が18種類もあって、さらに「残剣」が新しい文字を作ろうとしたところ。

 書道と剣道とが道は一つという雰囲気つくりは、中国原産なのか、それとも、おびただしい過去の日本映画へのオマージュなのか、判断に苦しみました。
 中島敦に「名人伝」とかありますが、ああいう感覚の相互輸出入逆輸出入かなとも思いました。

 文字を砂以外に、何に書くのかとおもいきや、なにか、布でしたね。あの時代、紙はなかったはずだから、どうするのかを見ておりました。紙は西暦0~100年頃のものですから。

 秦兵たちが、盾や武具をたたいて、「風」「風」「風」→「大風」「大風」「大風」と連呼するのは、ともあれ、異文明の、「軍」の恐怖感がわき上がってきました。

 一方で、秦王の刺客7名が、槍の名人に、てもなく刀を曲げられただけで、命を取られない場面。たしかに7名が生還するのが大きな伏線なんだけど、それにしても、日本映画の「峰打ちじゃ、命に別状はない」のセリフを思い出して、なんだか、日本映画みたいで笑いました。

 戦いの場に、盲目の楽人がいて、古い形式の琴をならすところなんか、うなりました。それに合わせて水滴、雨。なんか、雨中の決闘って、梅安さんの好きな映画にありましたなぁ。

 ああいう映画。
 ワイヤーはよく効いていましたが、それよりも、ストーリー、そしてあの映像美ですね。森と空と水。枯れ葉。砂漠砂塵。玉座と宮廷。
 ぜんぶくっきりとしたイメージが残りました。

 こういうところ、ハリウッド映画はどうしても逃げ腰ですね。気持があせって短期決戦になるから、脚本の底流というものをわすれているのじゃなかろうかと思います。もちろん邦画も。

 嘘でもナンデモ、本気の大義とか、美意識とか、気持をこめないと、すべてが表層に流れる。(Muがいうのは皮肉なことですじゃが、机上でプログラミングして、バグがなければ、終わりの世界にみえるよ。どんな風に観客に作用するかの予測項目すら、全部あらかじめ表に格納してある世界。つまらん)

 まあ、映画館でたら忘れる映画をつくるのが、いまのやり方かも知れない。すぐわすれるから、次の映画をみにきてくれると、しんじているのだろうか、世界の監督さんやプロヂューサ達は。

投稿: Mu→ふうてん | 2005年10月 2日 (日) 08時24分

張芸謀と色

 彼はカメラマンから映画の仕事にはいったようです。
そのせいか(色)へのこだわりが強い。
(英雄)では3つの色の衣裳が出てきます。
衣裳担当は黒沢映画をずっとやった和田エミさん(何を隠そうアノ和田勉の嫁さん)です。

 張芸謀はどこかで次のように語っています。

今度の”英雄”の”紅”は、あの黒沢監督と一緒に仕事をした和田エミさんが作ってくれたんだ。
自分も、学生のころは黒沢作品を見て勉強したし、黒沢監督の影響も大だ!!
その和田エミさんが、北京の郊外で、染色をしてくれ、100種類くらいの”紅”を染めてくれた。
その中のひとつが古代の”紅”で、主演女優が身につけているんだ。

 黒沢監督にこの(英雄)を見せてあげたかったですね。

 彼はまた高倉健さんの大ファンだそうで、京劇の三国志からネタをとった(千里走単騎)というのを健さん主演で作っているとか。
来年公開のようです。
Googleはいろんなことを教えてくれます。

投稿: ふうてん | 2005年10月 2日 (日) 15時21分

ふうてんさん、2005年10月 2日 午後 03時21分

 おそらく世間では周知だったんでしょうが、やはり、黒澤さんと海外の映画関係者はみんな縁が深いのですね。(Mu無知でした)

 監督さんはカメラマンだったのですか。色彩の乱舞でしたね。紅衣を天女のようにまとった飛雪が、趙の国に降り注ぐ矢という矢を、はたき落とすシーン、なるほど、でした。

 枯れ葉は、銀杏みたいに見えましたが、あのシーンもよかった。

 それから。

 これは(笑)ふうてん爺さんなら、話がつうじるでしょうが、騎兵に軍旗というのは、アラビアのロレンスで鮮烈でしたが、つまり大昔のアラブが発祥とおもっていましたが(まんざら嘘でもないですよ)、紀元前の秦でも、騎兵に軍旗というか、隊旗でしょうか、なびかせて走る壮観さ。

 で、お嫌いな古代史話ですが。

 数年前の、NHK正月「聖徳太子」。これも実は印象深いのです。メークですね。目の回りを、近藤正臣扮する用明天皇が、白い縁取りをしているのです。
 もちろん物部の巫女集団は、全員異様なメーク、主に眼ですね。巫女は、本当に眼で射すくめるようです。

 つまり。こんど、この張監督にあったらお伝え下さい。秦より少し前までは、軍の先頭に千人の巫女を、双方がうちたてて、戦いとはまず巫女同士の、総数2千余の女達の眼力で決着を付けたようです。周の呪術世界ですね。

 秦が強弓で六カ国を征した史実は、ここにもあると思う。趙国なんかは、多分呪術で合戦を挑むタイプだったかもしれない。そこで、遠隔地から、万の矢を射る秦。

 秦王に、あれほど、古式呪術に彩られた宮殿や、たたずまいを見せたなら、もう一歩。

 いやはや、読者観客は、いつの世にも勝手なというか、贅沢なわがままをいうもんです。

 次のケンサン、三国志時代ならば、あっ、諸葛孔明なんか、呪術の親玉でした。蜀の国も~

 おあとがよろしいようで。

追伸
 映画から、古代史にひっぱりこんで、すんまへんでしたな。

投稿: Mu→ふうてん | 2005年10月 2日 (日) 16時39分

始皇帝軍

最近、又、”岳南”さんの始皇帝、兵馬ヨウコウの本を再読していました。

史記とか歴史書には書かれていたが、秦の軍隊の実情については殆ど、兵馬ヨウコウが発掘されるまでは判らんかったようですね。

私も、西安の地下軍団を目の当たりにした時は息を呑みました。1号掘の密集歩兵隊6000、に対する左翼前方の2号掘の2000の機動部隊。

雁行の陣です。

機動部隊というか遊撃部隊の外側には強ドを引く立射ヨウで真ん中は、しゃがむ姿で弓を引くキ射ヨウです。ゾク(大型の矢)は100グラムある青銅で普通の二倍は有ります。

秦代にはさらに強烈な連ドという弓があったそうですね。始皇帝が山東半島の海で鮫を射殺した武器です。

始皇帝陵には暗ドという自動的にドが発射される兵器が設置されているそうです。

ともかく、西安の兵馬ヨウコウを是非御覧あれ。

投稿: jo | 2005年10月 3日 (月) 19時42分

jo さん、2005年10月 3日 午後 07時42分

 あれまあJoさんかいな(と、ねぼけた声ですまないです。うたたね~)。
 おひさしぶりです。
 ごぶさたしてすんません。
 いろいろ、ねむくてね。

 さて。Joさんが書いてくれた内容は、映画ヒーローでくっきりイメージできます。まさに、そのものでした。そうか、兵馬俑坑の姿をそのまま実写にしたわけですね。うむ、なるほど。

 しかし、西安に今からいくわけにもまいらぬし、ここのところは、以前買った『始皇帝の地下帝国/鶴間和幸』をながめておきます。
 貴重な情報ありがとうございました。

投稿: Mu→Jo | 2005年10月 3日 (月) 21時35分

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