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2005年9月27日 (火)

τになるまで待って/森博嗣

承前(θ:Gシリーズ2)

 先週土曜日の午後、風呂場をリフォームしている間に『τ(タウ)になるまで待って』を読んだ。森博嗣先生の最新作、Gシリーズ3である。
 変わった作品だった。読者の反応が二分されるような内容を持っていた。だから、一晩読んで日曜の朝に考え込み、月曜は野暮な仕事に終日謀殺(忙殺でしたぁ!)されて、そして今朝、ようやく筆にできた。

 今回は、出版社の帯情報を最初に引用しておく。ちょっと気になった箇所があったので。


森林の中に佇立する《伽羅離館》(がらりかん)。‘超能力者’神居静哉(かみいせいや)の別荘であるこの洋館を、7名の人物が訪れた。雷鳴、閉ざされた扉、つながらない電話、晩餐の後に起きる密室殺人。被害者が殺される直前に聴いていたラジオドラマは『τ(タウ)になるまで待って』。‘ミステリー’に森ミステリィが挑む、絶好調Gシリーズ第3弾!

読後感の分かれ目
 さてこういう前置きをして、読者が二分されるかもしれないそこのところをちょっと考えてみる。
1.コアな読者は「館モノ」「密室モノ」の水準を妥当に味わい、「ミステリー」という伸ばす「ー」記号に笑い、落としどころに森世界の広さを味わう。
2.普通の読者は「館モノ」「密室モノ」に驚愕し、落としどころに森世界の不明瞭さを味わう。

読者Muの実像
 さてMuの境界位置、制限をちょっと記しておく。
 Muは、意外にも、土曜の夜の読了直後感は、2だった。「素人読者さん」のようだ。
 そこそこに森博嗣先生の作品を読み、わずかだが綾辻さんや、京極さんや、島田荘司さんや、内田康夫さんや、西村京太郎さんや、笠井さんや、松本清張先生、横溝正史先生の諸作を読んできた割には、うぶいというか、この「館モノ」「密室モノ」の結構に感動したし、うれしかったし、ふむふむとうなずいた。
 それにしても、御名の列挙をみていると、まるで傾向がめちゃくちゃです(笑)

 [Mu自注:これは、よそごとながら、Muは極めて素直というか、ナイーブというか、世慣れていないというか、騙されやすい性格をよく示している。人格判定に、ミステリィをよませて、どう反応するかをみる新しいプロジェクトがあってよいとおもうほどに、Muは、このことに驚きを味わっておる]

解明1:館モノ、密室モノ
 やはり、お上手だと思った。
 伽羅離館、こういう館名にときめきを味わい、巻頭の館平面図に、うふうふと心おどらせ、その立地に、まだ那古野ちかくにこういうところがあるのかと、驚いた。自動車もかよわぬ、徒歩一時間の山中に、濠をめぐらし、四角くて、窓もほとんど無い洋館があるというのに、感動した。

 [Mu自注:こういうところに感動できないと、購入した価値が半減する。ミステリー評論家とか、ミステリー作家とか、コアなファンはある意味で、お可哀想にぃ]

 巻全体の印象は、なんとなく、Muが一番好ましく思っている『笑わない数学者』に近いものだった。これを開放感と見るならば、今図書は、閉塞感からの一挙離脱、という趣だったが。

 一天にわかにかき曇り、豪雨と雷鳴、夜の暗さ、……。
 携帯電話を遮断する館。
 異界にただよう、脳天気な自称美少女・加部谷恵美(かべやめぐみ)。
 双子の姉妹が出てきそうな、吹雪は吹かなかったが、……。

 加部谷が超能力者の助けで異界に彷徨う場面は、佳かった。
 その謎をあっさり明快に解いた海月(くらげ)の聡明さ。
 脱帽でした。
 そして。
 人が一人、密室で死んだ。

 土曜の夜は、巻措いて、ここが問題になった。トリックも、館の結構も、すべて海月君と犀川先生が矛盾なく、それぞれ数分単位で、解を見せてくれた。途中、あらぬ方向に解を抱きながら読んでいたMuは、その結末に、あらためて「驚愕」した。税込み900円、著者90円支払いへの、値うちはあったぁ!
 しかし、犯人は?、何故?
 ……
 つまずきの石は、謎が解明された、その先に残った。

解明2:‘ミステリー’に森ミステリィが挑む
 日曜日の朝、ぼんやりとしていたら、不意に気がついた。その帯情報の一句にである。
 ミステリーと、森ミステリィとは、異なった概念なのだった。
 解の一つを、帯情報にいれるなんて、講談社編集部か、作者かどちらの意思かは分からぬが、こんなことって、「有り~?」嘘でしょう。いや、嘘じゃない。双子の姉妹がセリフにでてきて、吹雪の館が云々館ぬん。
 Muはやはり、焼きが回ったようでも、どっこい、往年の「鋭さ」、その切れ味が残っていた。うむうむ。

 森博嗣先生にとっては、めずらしく、メッセージ性の強い作品だったのだ。森ミステリィとは、世上のミステリーとは違うものなんだ、という芸術家のメッセージだった。

 その結果の妥当性はまた別だろう。
 世上のミステリーには、多数の読者をかかえた歴史があって、Muはその世界に「楽しみ」「生きる力」「驚き」いろいろな恩恵をうけてきた読者なのだ。あげた御名の作品はこれからも、ずっと読んでいくだろう。うふうふと、笑顔うかべて。

 しかし、森先生のそれに気がついたとき、Muは土曜の夜の読後感の、割り切れなさを、別の世界観から消化したほうが、佳い。そういう結論がでてきた。
 まだ結論は出しにくいが、ノヴェルズ一冊分のτは、完本Gの第三章であると明確に割り切ればよい、そう決心した。

 その兆候は、『四季』にすでに現れていた。
 完結しない、統括しない、閉ざされない物語世界。それが、Gシリーズにあっては、ますます顕著になってきた。
 だから、先週末Muの読後に、おりのように残った3割の不明瞭さは、現実そのものの姿なのだ。
 現実世界は、本人の死以外、永遠に終わりも、まったき解決もない。

 こういう贅沢さは、普通の作家にはなかなか難しい。

その他
 読書中、なにかと『笑わない数学者』を思い出していた。館や密室のトリックが、なんとなく解けそうで解けない、その独特のミステリィ感がただよっていて、心地よかった。こういうところが自称素直なMuの得しているところであるわいな。

 おばさま、萌絵さま、加部谷君、おんな達の描写は、本当にお上手だった。
 特に、萌絵のおばさまが、超能力者の教室に通い、その若い美形先生を愛でること、彼に熱をあげることが若さの秘密と萌絵に語り、同時に萌絵に事件がらみで聞かれて、超能力者の氏素性経歴を実に冷静に客観的に語るところなど、この世の「女」の怖さをわずか数行で、Muは深く味わった。そう、おばさまが萌絵に言うように「それとこれとは別」なんだ。

笑わない数学者/森博嗣による自注


 天才数学者の館「三ツ星館」が舞台です。実はその建物の断面図まで決めていたのですが、専門的になりますので結局はカット。こんなシンプルな住居に住みたいものです。
 さて、この作品は、最も、ミステリィファン以外の方に向いているでしょう。5連作[Mu注:S&Mシリーズの3:一般的なSM小説(笑)ではなくて、犀川創平&西之園萌絵シリーズ、のことです]の中で1冊読むならこれにして下さい。5連作の中でもっとも自分の納得のいく作品だからです。
 北村氏より頂いた凝った推薦のとおり、トリックは簡単で、誰でも気づくものです。意図的に簡単にしたのです。しかし、トリックに気づいた人が、一番引っかかった人である、という逆トリックなのですが、その点に気づいてくれる人は少ないでしょうね。でも、少なくとも北村氏は気づいたのですから、森としては、これでもう十分です。(引用URL

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