空色勾玉(そらいろまがたま)/荻原規子
空色勾玉/荻原規子 作<ソライロ マガタマ>
東京 : 徳間書店、1996.7
366p ; 19cm.
ISBN: 4198605394
著者標目: 荻原、規子(1959-)<オギワラ、ノリコ>
分類: NDC8 : 913.6
注記: 2005年6月 25刷
所蔵図書館 82 [by Webcat 20050810]
帯情報
村娘狭也(さや)の幸せな日々に、影を落とすのは昔の記憶……「鬼」に追われた六歳の自分。十五になった祭の晩に、「鬼」はついに追いついた。<おまえは「闇(くら)」の氏族の巫女姫だ> と告げられて、憧れの「輝(かぐ)」の宮に救いを求める狭也。だが、宮の神殿で縛(いまし)められて夢を見ていた「輝」の末子(すえご)、稚羽矢(ちはや)との出会いが、狭也の運命を大きく変えていく……神々が地上を歩いていた古代の日本「豊葦原(とよあしはら)」、光と闇がせめぎあう戦乱の世を舞台に、「水の乙女(おとめ)」と「風の若子(わかご)」の冒険と成長、運命の恋を描き、圧倒的な人気を博したファンタジー。
表紙画:いとうひろし
Mu注記・三部作
荻原規子<勾玉>三部作の宣伝があった。それによると、白鳥異伝(ヤマトタケル伝説と勾玉)、薄紅天女(長岡京を舞台にした最後の勾玉)。読んでみたい気もしてきた。
Mu注記・感想
夏の不思議な読書体験だった。
この作品というか、著者はこの図書でデビューし、日本児童文学者協会新人賞を受賞し、米国翻訳もされたようだ。
児童文学というものに暗いので、その水準においてはなにも申せぬが、普通の物語として一気一晩で読み終えた。ハリーポッターを児童文学と呼ぶことを嫌う人もいるようだが、詳細はわからない。ただ、のめり込んでいく雰囲気は少し似ていた。Muが珍しく一晩で読んだのだから、相当な物語性を秘めているのは事実だし、名作だと思った。
この図書はいわゆる「筋を見せない方がよい」作品であろう。児童図書(10歳以上)だからなのか、総ルビがふってあって、難しい漢字もふりかえらなくてもすぐに読める。しかし、物語は複雑である。複雑さを意識させないで進んでいくのが、気持よかった。
少しくらい内容を明かしておこう。作者のことは全く知らないし、気むずかしいミステリ作家とは違って、お怒りにはならぬだろう。ましてこのMuBlog の読者は平均年齢50歳以上だから、読書対象者は読まぬ(笑)。
で。
一番気に入った人物というか、人か魔物かわからないキャラは、稚羽矢(ちはや)である。年齢性別一切不詳である。わけのわからない「物」で、Muはヒロインがチハヤに出会ってから、もう、巻措くあたわず状態になってしまった。デビュー作でこういうキャラを造られた作者の才能は輝いてまぶしい。
稚羽矢をどう言い表して良いのか、筆が踊らぬが、いうてみればプッツン、天然の極端な一種であろうか。読み進むに従って、唖然が重なり、呆然となってしまった。もちろん、押さえ処はちゃんとあって、最後は締まりがあったが、異能の天然という、なんとなく古びた言いぐさが、今のMuの頭の中を駆けめぐっている。
さて。闇(くら)と輝(かぐ)との相克。
月代王(つきしろのおおきみ)と照日王(てるひのおおきみ)との関係。とくに照日王の、これまた年齢性別不詳の色っぽさがよい。総じて、でてくる人物というか神というか、すべて宝塚の麗人という趣が、うまくMuなどの年齢や趣向に収まっていた。
天地を揺るがす情景描写、輝くようなまほろばの宮殿描写。目を覆う國津神の禍々しさ。こういう世界観を、ファンタジーとは言いながら、実に丁寧にリアルに描く物語は、珍しいのではなかろうか。
……、と、やはりこれくらいにしておく。一言でも口を滑らせると、刃が飛んできそうな面白さなのだから。
追伸
やはり、一言。
著者が後書きで一定の断りを入れてはいるが、Muは月読命を大胆に起用したところが、古事記世界であると考えた。月読命とは、だれかさんの兄弟姉関係で、涙で地を枯らしたという、実に変わった神様である。涙を流せば水浸しになると思うだろうが、実はその逆もある(本図書とは無関係の話です)。
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コメント
アマゾンの本?
たまにアマゾン・ドット・コムの写真が出てきますね。
これの意味がコチラには分かりません。
どういう文脈でアマゾンがMuBlogに出てくるのか、いつか教えて下さい。
投稿: ふうてん | 2005年8月11日 (木) 01時50分
ふうてんさん、2005年8月11日 午前 01時50分
もしかしたら、amazonがおきらいなのかなぁ。趣旨は、MuBlogの左サイドバー「SDI自動選書」を御覧下さい。
http://asajihara.air-nifty.com/mu/2004/12/0412282.html
要するに簡潔にもうしますと、関係図書情報をMu自身のために設定しているわけです。
Muはもちろん読者の皆さんに向けて書いておりますが(笑)、何よりも自分自身の脳内構造の射影でありましてぇ~(むつかしいな)
投稿: Mu→ふうてん | 2005年8月11日 (木) 04時55分
愚問でしたね
初歩的な質問で失礼しました。
アマゾンのサイトとMuBlogを行き来して、Muさんの狙いは少しく理解しました。
アマゾンは嫌いではなく時々やっかいになります。
昨日でしたかNHKでアマゾン川をやってました。
大西洋からの蒸気がアンデス山脈でストップされて大量の雨になるそうです。
支流が1000本ほどあるそうで。
うつろいゆく巨大な図書館なのかも知れませんね。
投稿: ふうてん | 2005年8月11日 (木) 11時14分
ふうてんさん、2005年8月11日 午前 11時14分
いやはや、……。
ところで、食事中にアマゾン見ましたで。
この世の中には想像をぜっする魚、生命体がおるんですなぁ。
そして、雨期になると、河と言うよりも、まさしく海の様相でした。
話変わって、変わらないか。
近頃ことのほか、大NHK(笑)の自然ものが好ましく思われてきました。いつぞやは、移動する大瀑布(これは、アマゾンでしたかな)を見て、驚天動地。
地球。
すごいものですね。
投稿: Mu→ふうてん | 2005年8月11日 (木) 11時57分
先生、
「空色勾玉」は京都市図書館関係団体選の子どもの推薦図書”本のもり”の中に選ばれていますね。
実は、まだ読んでないのですが・・。
いろいろな方に勧めていただいたので、ぜひ読んでみようと思います。
三部作なんですね。
投稿: 羊 | 2005年9月13日 (火) 10時12分
羊さん、2005年9月13日 午前 10時12分
ああ、公共図書館ではそうだったんですか、紺屋の白袴。
ええ、ものすごおもしろいです。
Muなんかの感性だと、ハリポタとか、映画しか知らないけど、あの偉大な指輪物語よりも、好きですね。
一応三部作ですが、最近新刊とれとれの「風神秘抄」というのも、買ってあります。紺屋の白袴、好きな本は買ってしまって部屋が犬小屋。
三作目から、長岡京時代(平安時代の直前ですよね)にうつり、4作目は、源平の初期みたいです。
一、二は圧倒的でしたが、三の長岡京時代は、あまり知らないのでものすご楽しみです。
まあね。
読書、どこに名作がころがっているかわからない。Muは長い長いあいだ、荻原則子世界を知らずに来たのです。
投稿: Mu→羊 | 2005年9月13日 (火) 12時09分