墓盗人と贋物づくり:日本考古学外史/玉利勲
『墓盗人(はかぬすびと)と贋物(にせもの)づくり』は平凡社の選書142で、1992年に刊行されている。
著者の玉利勲(たまり・いさお)さんは30年間ほど朝日新聞記者を勤め、朝日ジャーナルの編集長でもあったよし。奥付上の著者紹介にあった。1924年鹿児島生まれなので、今は80歳を越えておられるのだろうか。
今から十数年前の刊行だから、入手を危ぶんだが、近頃閉店の京都丸善に注文しておいたら、意外にもすぐに到着した、六月ころだったろうか。2300円。今日になって、あっけなく読了した。やはり、選書形態は比較的絶版の憂き目にあいにくいのだろうか。
入手し、読んで良かった。
盗掘といえば、中国やエジプトのお家芸と思っていたが、なんのことはない、日本にも累々と墓暴きの風習があるようだ。考古学者にもよるが、未盗掘の古墳に出くわすのは、研究者生活中数度しかないようである。
20世紀初頭の宮崎県では八十数基の古墳が村民総掛かりで暴かれ、多数の副葬品が転売されたとか。20世紀末の関東北部では、組織的に古墳が掘られ闇商人が暗躍しているとか。奈良県北部の某村では江戸時代、村をあげて天皇陵を発掘(笑)していたとか、不敬の限りなり。
圧巻は。
これは森浩一先生の調査研究に密接に関係するのだが、仁徳天皇陵(大仙古墳:この書き方が難しい。伝仁徳天皇陵古墳とか、文字使いに注意を要するようである)にあっては、明治初期の堺県令だった税所篤(サイショ・アツシ)は、すさまじい古代史マニア癖が昂じて、天皇陵そのものを、自らの強権をもって盗掘した形跡がある。伝仁徳天皇陵出土品が米国ボストン美術館所蔵とはよく聞く話だが、国外流出したのは税所・堺県令によってのことと推測される。
玉利さんによると、学会では森浩一先生とは異なる意見も少数あるようだが、私の感想では、この税所という薩摩っぽは維新の元勲だったから、権力を駆使して盗掘癖を助長した形跡がある。つまり、堺県令は途中で奈良も管轄にはいり、それこそあちこちお宝の山の中で、税所県令の顔が残った。
他にも、浜田耕作さんの戯刻壁画とか、今から考えると汗がでそうなお笑い話もある。全部で十一編あるが、どの編も「そうだったのか」と、奇妙に納得させる内容だった。
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コメント
面白そうですね!ミステリー小説よりも面白そうでんな?
税所篤という人の話は、何回か聴きました。
盗掘団の話とか、村中で盗掘するとか、面白そうですね。考古学者は村の人々と仲良くならんと、発掘する古墳が判らんそうやね。
この世界はホンマ、面白くてやめられんね!
今、森先生の”ぼくの考古古代学”という本を読んでいます。
投稿: jo | 2005年8月 4日 (木) 12時09分
joさん、 2005年8月 4日 午後 12時09分
おそくなりました。
ちっと夏なりの繁忙期(笑)に入りましてな。まるで修道僧みたいなMuとあいなりました。
で、なんでこんなおもしろい世界を、世間の人は、やれ「歴史は嫌い」「歴史は覚えなあかんし大嫌い」「抹香臭い寺や、ひとけのない神社なんて、どこがええの」とか、天皇さんや貴族の事に、興味ないわ。などと言うのでしょうね。
ああ、なんもしらんとね、衆生は。度し難い。う~けっけけ。
でJoさん、その奈良の「村」というのはね、実は、Joさんがよく(仮想的に)知っている人のところなんや。もちろん、時代は幕末明治の話でっせ。
今は、そんな大逆的御陵荒らしなんて、だれもしませんでぇ、関西では。
関東では、塚という塚、古墳という古墳は軒並み不動産屋がらみで、墓荒らしが着々と進んでいてもね。
と。石上神宮の宝物のことでも、税所堺県令が関与していたはずなんですが、ちょっと調べても出てこなかった。石上神宮が抵抗したのかもしれませんなぁ。
それと、昔熱狂して読んだ五木寛之さんの『風の王国』に、税所が別名で出ているって、この記事図書にありました。気がつきませんでしたなぁ。
ともあれ、森浩一先生の研究は、JOさんが大先輩ですから、またいずれご指導下さい。
投稿: Mu→Jo | 2005年8月 4日 (木) 20時09分
ほんまやね~~。古代史ほどおもろいもんは、無いと思うけどね。
ほれ、今までの定説が誰かが発掘して新しいもんが出たり、今までの遺跡を再度、科学的に調査すると、まるで180度違う結果になったりしますな。
ところで、盾列古墳の話でんな?そんな悪い事しでかしたのは。あそこは、ホンマ不思議なんやね、5世紀の河内王朝時代やのにね。
関東ね~~、多摩丘陵も大規模団地の開発で殆ど破壊されたな~~。
五木さんの”風の王国”ですか?今度、調べてみます。アノ親爺、最近は百寺巡礼の番組で忙しそうやね。
森先生やけどね、私と似てるとこあるんや。先ずね車を持たない、腕時計をしない、数千円しか現金は持ち歩かない、クーラーは使わない。省資源のひとですわ!
投稿: jo | 2005年8月 4日 (木) 21時23分
joさん、 2005年8月 4日 午後 09時23分
JO先生はじめ、考古学者は変人やね。
車を持たない、
↑免許がないか、4輪駆動でも山稜には入れないから。
腕時計をしない、
↑穴掘りには邪魔になるから。
数千円しか現金は持ち歩かない、
↑それしか、ないから。遺跡までの電車賃。
クーラーは使わない。
↑身体を慣らしているから。高松塚みたいな特殊墳墓でないと、クーリング施設はないからね。
以上が、きっと事情の奥にあるのです。
投稿: Mu→Jo | 2005年8月 4日 (木) 23時17分
鋭い分析ですね!
私の場合は少し違いますね。車は本来必要なんです。だけど、運転するのが面倒なんやね。
それと、運転してると、眠くなるんです。
腕時計はもう、20年程まえからしていません。サラリーマンのくせに、時間に縛られるのが嫌なんやね。
だけど、人さまを待たせることだけはしません。相手の貴重な時間を無駄にしてはいけませんからね。
最近は現金をあまり持ちません。金が無いからだけの話ですね。
クーラーは我が家では殆ど必要無いです。クーラーを購入したのも、数年前の事ですね。
しかし、京都では無理でしょうね。鍋底やからね。可愛そうなMuさん。
投稿: jo | 2005年8月 5日 (金) 08時55分
joさん、2005年8月 5日 午前 08時55分
ちょっと一息ついて、コメント返し。
今解き明かされる、Muの極秘生活のすべて!
→マシン・メカ・フェッチですから、一日一回ハンドルを触らないと不安定になります。これはマウスも同じ。一日一回、光速ハードディスクの回転音を聞かないとむなしくなる。
→時計がないと不安定になる。時計に縛られるのが快感(笑)。だから、集合時間なんか、相手が数秒遅れるだけで、内心怒声と憤怒。時間を合わさない人間は、猿にしかみえない。
(補注:実は、なにごとかに専念しておる際には、世間の時計なんか虚空に溶けてしまっとるです。まあ、北方・水滸伝を読んでいるときとか、SF/推理映画鑑賞時)
→現金所持論については、Joさんはカードなんだろうな。Muはいつもにこにこ現金払い。財布には8千円ほどはいっとります。割り勘代やね。
→クーラーは、この30年前後、子孫達は冷暖房なしの部屋でした。Muは、木幡も葛野も27度c恒温ですね。
若年時以来、炎天下も帽子と開襟シャツだから、大体脳内は30度を切っておるはず(冷血動物かねぇ)。
いまさら、クール・ビズなんて臍が茶湧かす。ずっと、カミシモなしの生活でしたから、な。暑いのに暑いカッコウするのは、マゾでっせ。世間の官僚やえらいさんたちは、あはは、自虐的やね。
相手への礼節という人もいるが、Muは一声「おまえなぁ、暑苦しいんじゃ。やめてくれや、そのネクタイやクソ暑いスーツ」「不愉快、きわまりない。爾今以後、貴様との面談はせぬ」、となりますね。
(補注:重装備戦闘服は別です。これは機能優先(笑))
もちろん木幡では、縮みすててこしゃつ、しゃんしゃん。腹巻きはしてませんが。
というわけで、JOさんや古代史家に比較して、こうして書いていると、Muはまともにみえるね。(自笑)
投稿: Mu→Jo | 2005年8月 5日 (金) 09時21分
何でこんな些細なことで、ムキになってバトルが繰り広げられるんでしょう。
家の周りは、ところどころに「宮内庁」の看板が立っていて、さもそうであるらしき天皇の名前が書かれているんですけど、みんなウソっぱちなんかなぁ~。桜の木が植わってる古墳もすぐ近くにあるんですけど・・。
投稿: wd | 2005年8月 5日 (金) 10時46分
wd さん、 2005年8月 5日 午前 10時46分
天皇陵の比定は幕末に大がかりに行われたそうです。神武さんの橿原に一番普請資金もかけたようです。初代ですからね。
しかし、なにしろ萬世一系ですから、どなたさんのお墓でもよろしいとも、Muはときどき考えます。
天皇霊はあまねく遍在しておるのですからね。
~
Muはもしも大昔、国史を選んでいても、まともな古代史家にはなれんかったでしょうね(笑)その日の気分で、崇神はんはここや、いや、応神さんはあっちゃや、まてよ、今日はここにしときましょう、とね。神功さんは天皇陵にしときまひょや……。そんなわけです。
投稿: Mu→Wd | 2005年8月 5日 (金) 13時11分
税所篤は大森鴻の「狐闇」(講談社文庫)に出でてきますね。これ、ミステリーですがおもろいでっせ。
投稿: 冬狐 | 2005年9月27日 (火) 17時57分
冬狐さん、2005年9月27日 午後 05時57分
はじめまして、存じ上げませんが、試しに読んでみます。
気に入れば記事にしますので、またどうぞ。
狐の闇とは、古墳の中かな?
まあ、読めばわかるのでしょうが。
たのしみです。
(入手できるかどうか、……)
投稿: Mu→冬狐 | 2005年9月27日 (火) 20時06分
冬狐 さま、2005年9月27日 午後 05時57分
お奨めのミステリを、ようやく、やっと探し当てて、40日目に読了しました。
http://asajihara.air-nifty.com/mu/2005/11/post_d978.html
紹介して下さってありがとうございました。
Muは未知の物や人には、よほど紹介がしっかりしていないと、手を出さないのですが。まあ、隠棲blogにわざわざコメントを下さるのですから、「好い人じゃろう」と想像して、大森さんを手にしたわけです。
なかなか、冬狐堂が複雑な女性なので、おもしろかったです。西郷さんやジンギスカンや、なんとも、Muが昔から好きだった内容もいっぱい。さらに、骨董屋さんの裏世界をかいま見た思いもして、好かった読書買でありました。
(西郷さんのロシア渡りという別のテーマでは、光瀬龍という、亡くなられたSF作家がよい作品を残しておられました。たしか、「所は何処、水師営」でしたような、著者名は正確ですが、書名は不確実です。)
謹んで、お礼を申し上げます。
投稿: Mu→冬狐 | 2005年11月 6日 (日) 14時18分