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2005年7月16日 (土)

北方謙三『水滸伝』十六「馳驟の章」

承前

 ようやく十六にまで進んだ。一息に読めたので「もう、終わりか」と嘆いた。実質の終わりは19巻か?と思っているので、まだある(笑)。こういう長編小説は、終盤に入ると読むのが惜しくなる。

 さて、背景。
 先回は詳説しなかったが、梁山泊と宋とが総力戦をしたのが先の十五巻だった。宋は20万の兵でもって梁山泊を押しに押した。一方梁山泊は、5万?程度の寡兵だったか。しかし、梁山泊は味方になった関勝(かんしょう)将軍の友人宣賛(せんさん)が軍師となって、宋の副首都・北京大名府(ほっけいたいめいふ)を陥落した。このことで帝は停戦を麾下将軍に命じ、戦いは収まった。
 それから一年、この第十六巻となった。

1.致死軍・公孫勝(こうそんしょう)、遂に青蓮寺(せいれんじ)を討つ。
  燕青(えんせい)、青蓮寺総帥袁明(えんめい)を倒す。
 これは物語に大きな転機をもたらす事件だった。
 致死軍は梁山泊の秘密工作部隊であり、長年宋国のCIA青蓮寺と死闘を繰り返していたが、好機を逃さず総攻撃を行った。袁明が青蓮寺に居ることを確認し、彼の従者洪清(こうせい)が三日に一度外食する日を見計らってのことである。その前後、青蓮寺の軍組織(闇軍)も遠隔地に作戦で出払っていた。
 難敵は袁明(えんめい)のボディーガード洪清(こうせい)だった。無敵の老人だった。これを死闘のはてに燕青(えんせい)が倒した。これによって、袁明のガードは無くなり、覚悟の死にいたった。
 燕青とは、塩の道を維持する盧俊義を救い二日二晩死域の状態で主人を梁山泊に運んだ美青年である。燕青と洪清とは、ともにボディーガードであり、一方が若く、一方が老人だった。この対比はしかし単純ではない。

2.青蓮寺総帥、李富(りふ)が継ぐ。
 Muは梁山泊に肩入れをしているが、なんとなく謀略好き(笑)なのか、青蓮寺は別だ。というよりも、北方水滸伝は、致死軍と青蓮寺とを好敵手として扱っている。だから、簡単に青蓮寺が廃滅すると、図書を投げ出したくなる。そこはそれ、手練れの北方さんだから、読者を突き放さない(笑)。
 青蓮寺は袁明の遺言によって、志付きの人間コンピュータ(メンタート、と書けば、砂の惑星になってしまう)李富がつぐことになった。李富については、シリーズの前半で強烈な印象を残している。
 ここで。
 終盤にかけて活躍が期待できる妓街の遊妓・李師師(りしし)という女が注目を集める。彼女は故袁明の師匠の娘のようだ。ではその師匠とはだれか? これは宋の歴史、改革史を知れば分かる。
 その李師師は一番の売れっ子なのだが、実は帝の愛人であり、耳目であり、……。そして、李富は彼女に会う。これは袁明の遺言にしたがっての事である。さて、おもしろくなった。

3.三人の強い女。
 孫二娘(そんじじょう)、顧大嫂(こだいそう)、一丈青・扈三娘(いちじょうせい・こさんじょう)の三人がそれぞれに光っていた。前二者はともに夫を暗殺者史文恭(しぶんきょう:晁蓋を毒矢で暗殺した男)に殺害された。扈三娘は身重で、亭主の隠れ場所を襲い、女を自らの幕舎に連れ去る。亭主の愛人も身重。
 どう光っていたかはおくとして(笑)、なかなかに、歴史物で女ともうせば色事の対象とばかりなる中で、この三人、強烈すぎてめまいがするような「女」に描かれていた。
 とくに扈三娘(こさんじょう)と言えば、水滸伝屈指の美人でかつ屈指の武人である。日本風に申せば巴御前となろうか。亭主は様々な事情があって、足も短く、みかけもさえない王英。これも謀略軍の隊長である。相当な使い手である王英が「駄目だ、絶対に勝てない。殺される」と覚悟して、逃げに逃げる姿は、一種の爽快感さえあった。
 前二者は、愛しい亭主をむざむざ暗殺者の手にかかるのを、救えなかった運命に、どう耐えたのか。
 描写としては、最高のやけ酒があった。
 酒屋の肉という肉を食べ尽くし、酒という酒をのみほして、梁山泊の名うての将校連をはりたおし、梁山泊宋江や幕僚の悪口を言い合う、それもまた爽快だった。

4.童貫(どうかん)、史進(ししん)を破る。 
 ついに禁軍の総帥童貫が戦場にたった。宋国元帥である。
 梁山泊の暴れ者史進(ししん)でさえ、5千の兵とあなどり追撃をかけたが、まるで大人と赤ん坊の差がでてしまった。

*.まとめ
 ああ、久しぶりの北方水滸伝、よろしいですなぁ。なんだか、身内にエネルギーが充満してくる思いがしました。小説というもの、映画というもの、これらはMuにとっては人生のサプルメントどころか、主食でありました。どんな栄養サプルメントがあっても、米の威力には勝てません。
 そう、Muにとって、物語は命の水、です。 

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承前  この十七巻もあっけなく読み終わった。ここまでの長編になると、Muも心眼で読んでいるのかも知れない。あれよあれよという間に最終頁になってしまった。  エピ [続きを読む]

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