0503291・たたら製鉄:千年の秘技
プロジェクトXというNHKの番組は以前から気になっていた。一度、模型ヘリコプターを見ただけだったが、感動した。で、今朝新聞をみると、「千年の秘技」という文字が目に入り、あわてて予約録画をした。
さきほど、放映を観た。
驚きが先にあった。つまり、弥生時代以来のたたら製鉄が、戦後全く途絶えて、30年間空白だったという事実にである。
空白は埋まったのだろうか。
20年前にいろんな事情で、たたら製鉄を復活しようとした島根の小工場が、どうしても製法が解けず、出雲の山中で炭焼きをしている70数歳の安部由蔵さんを連れてきて、拝み倒し、その後も数々の試練をへて、ようやくやっと、燦然と銀色に輝く純度99%の玉鋼(たまはがね)を造った。Muは、秘技の断絶寸前の恐怖に我を忘れた。
今では、北九州の方でもたたら製鉄を若い技術者達が伝承しようと、実験しがんばっているが、20年前には誰も出来なかったようだ。
安部由蔵さんという方はその時、最後の「村下(むらげ)」といって、タタラ製鉄をする際のチーフであり、一子相伝の秘技を持っていた。それは現在、たたら製鉄を復活させる中心となった当時の技師木原明さんが9年間弟子入りして、最後に安部さんから「君は村下です」といわれ、からくも伝わった。
それにしても。
古代の玉鋼製法が、近代製鉄では復元できなかったというのが驚きだった。
技術は深い。
プロジェクトXとは言っても秘伝の総てをしることはできなかったが、いくつかメモをしておく。
1.炉は特定地の粘土製で、2メートル70センチの長さを持つ長方形。蓋のない大型石棺に見えた。底は玉鋼が貯まるように丸くくぼんでいた。
2.三日三晩、炭と砂鉄とを燃やす。風はふぃごで送るが、じわじわとした酸素供給がよい。温度は1500度c。
3.赤い炎を15時間程度、その後山吹色になったなら、半ば成功。
4.砂鉄は、出雲の某山のものを1千回にわけて炉にまんべんなく入れる。紫色の炎は砂鉄の偏りをしめす。
*.某山は国有地のため、最適の砂鉄がえられなかったので、水をかけ酸化を事前に促した。
まだ録画を観ていないので、これくらいのメモしか頭に残らなかったが、たたら製鉄をしようとすると、おそらく安部村下に9年間弟子入りしなければ、会得できない様々なことがあるのだろう。事実、仕上がり前に炉の下部にある「のぞき穴」をあけて、音を聞いていた。風の音の合間に、砂鉄から純鉄が生まれる鳴き声がちりちりと聞こえるそうだ。
また、実際の製法をみていると、金屋子神(かなやごがみ)に祈るという点から、三日三晩寝ずに炉に付き合うのは、単なる肉体の壮健だけではなく、精神力が相当にないとできないことに思えた。
この記事はメモに終わったが、Muは以前JoBlogで話題になった「たたら」について、蒙を啓かれた思いがした。日本古来の鉄、その純度、その日本刀への応用。技術とは、人の心の産物であると、今夜あらためて感じ入った。
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コメント
感動でした。
技術は途絶える。秦の始皇帝陵近くの兵馬ヨウから発掘された、クロムメッキの青銅の剣の話を思い出した。
村下(むらげ)が手拭いで、ほうかむりの格好をしていましたが、『もののけ姫』のたたらの場面でも、そう言えば同じ格好でしたので、宮崎さんは、ちゃんと調べたんですね。
この、たたらの火で目をやられる。農耕稲作民が恐れた、一つ目小僧はこの山の民という説が有りますね。
会社の同僚で出雲出身の若者がいて、話によると自宅の大黒柱の下には、玉鋼を埋めてあるそうだ。いざと言う時には、この玉鋼を売れば家が再興されるという、訳だ。
この数日は丁度、門脇禎二さんの『出雲の古代史』NHKブックスを読んでいたところでした。
投稿: jo | 2005年3月30日 (水) 09時15分
joさん (3月 30, 2005 09:15 午前)
コメントありがとう。
『もののけ姫』をまた観たくなりました。
あの製鉄風景は、Muにとって、ひとつの確固としたイメージになっているのです。
玉鋼が銀色に輝き、宝物に見えましたが、実際にあれだけ手間暇をかけ、秘伝をつくしたものならば、相当に価値の高いものでしょうね。
番組では、常にうまく玉鋼が生まれるわけでない、その難しさがにじみ出ていました。
ところで、JOさん、急ぎはしませんが、あなたの記事で「たたら」関係があったようなんですが、後日探して教えておいてください。Muの本文に引用し、トラックバックもかけておきたいです。
よろしく。
追伸
この正月新聞で、出雲で玉鋼を造る祭祀があったのを見かけました。多分、番組内でわずかに見えた祭がそうだったのでしょう。
現代も、出雲で造られているわけです。
いかずばなるまい(笑)。
投稿: Mu→Jo | 2005年3月30日 (水) 09時29分
NHKのプロジェクトX、私も感動しました。
出雲安来地方には色々とたたらにまつわる
神話・伝説もあるようで少し勉強しようと
思っています。
投稿: 黒岩守 | 2005年4月 3日 (日) 12時25分
黒岩守さん (4月 3, 2005 12:25 午後)
はじめまして(の、はずですね)黒岩さん。
コメントありがとうございます。
「たたらにまつわる神話・伝説」
当MuBlog常連のJoBlogでは、八岐大蛇神話がまさにそうだと、書いておりました。うなずけます。
私は、たたらを見て、NHK的存在(金と人と時間をかけて、持続的に番組を造る)の公益を少しだけ見直しました。「たたら」という言葉は高校生ころから知っていましたが、把握しかけた、とおもったのは、あの番組を見てでした。40年ちかく知識情報が血にも肉にもならなかったのに、小一時間で理解が深まった、と思った次第です。
投稿: Mu→黒岩守 | 2005年4月 3日 (日) 13時09分
島根県では古事記1300年のイベントがあるらしく、今年は山陰に足を延ばそうかと思います。まず鳥取県の白兎海岸での白ウサギの話のあと、オオクニヌシの神は、八十神にいじめられたあたりが鳥取県日野郡あたりで、その後根之堅洲国のスサノオ神からも試練を受ける。このあたりは島根県安来市の富田八幡宮の境内社須賀神社あたりになろうかと思います。近くには、古代出雲王陵の丘と言う弥生大型墳丘墓の一種四隅突出型墳丘墓の密集地帯があるそうです。イザナミ神の神陵地である比婆山にも寄ってみたい。そうやって島根県松江市にある黄泉平坂のある揖夜神社に寄って、出雲大社や古代出雲歴史博物館のある島根県出雲市へと向かいます。こうやって、オオクニヌシの神の移動に合わせて観光するのも一興だと思います。古代歴史博物館に飾られている錆びずに出土した奇跡の大刀は、中間地点の安来市から出土したらしく、ここはたたら吹き製鋼法を伝える和鋼博物館や、日本庭園世界一の足立美術館などもあります。
投稿: 円安来たりてロマン人 | 2012年2月22日 (水) 21時55分
円安さん、はじめまして。
随分ご丁寧な旅行案内、ありがとうございました。
どこか、旅行会社に売り込むとよいかも~(笑)
「イザナミ神の神陵地である比婆山にも寄ってみたい。そうやって島根県松江市にある黄泉平坂のある揖夜神社」
こういう所に、Muも随分興味を覚えました。
島根は、山陰と「陰」な名称に重なるイメージですが、古事記1300年の明るいイベントで、神々の笑いを招きたいです。
Muは陽と陰の混じり合うところ、陽と陰のそれぞれの極北、いずれもひかれますが、世間一般のイメージを払拭したあたらしい「陰」を期待します。
投稿: Mu | 2012年2月23日 (木) 05時13分
やはりここは日本の原点、いやDNAが凝縮しているなあと思いました。十神山は神世のオノゴロ島、よく調べると興味深い神社も多いということで安来の神社巡りを連休にはやっています。
投稿: バイク野郎 | 2013年12月25日 (水) 22時09分
日立金属の安来工場や冶金研究所があるところですね。画期的製品や理論が開発されているのは素晴らしいことです。
投稿: 澤本 | 2016年1月27日 (水) 21時55分
日立安来といえば、あの海綿鉄を何万トンも供給した凄まじいものづくり魂ととてつもない技術を忘れてはならない。凄すぎます。
投稿: 和田盛 | 2016年12月 5日 (月) 23時38分
日立金属安来工場といえば、海綿鉄を何万トンも供給した凄さだ。ツーリングで足立美術館から安来和鋼博物館へ行き、屋外にひっそりと展示されている、ハクセンカイを見た時は、衝撃を受けました。
投稿: 沢田 | 2017年1月 7日 (土) 21時22分
十神山は島根県で全国の神様が。神在月と呼ぶ季節に、出雲大社に集まれるとき、休憩される、山と聞いた。島根全体がスピリチュアルサンクチュアリ(霊的聖地)だ。味がありますよね。
投稿: 塩路 | 2017年2月10日 (金) 17時42分
全ての質量には光速(30万㎞/s)の2乗の積のエネルギーが存在する。を彷彿させる驚きです。
投稿: 重量子 | 2017年10月24日 (火) 23時46分
日本の誇りだ。
投稿: 庄司 | 2018年1月19日 (金) 00時33分
極めて優秀な海綿鉄製造に関して、実験炉だけでも極めて困難だ。そのルーツがたたら操業。神秘的です。
投稿: 堀金 | 2018年1月30日 (火) 21時32分
今日の圧倒的な信頼を築いてくれた、日立金属安来工場の先人達は偉いです。
投稿: 博労 | 2018年2月 3日 (土) 01時58分
日立安来和彊会って凄いと思っています。オーラがあるよな。光ってる。
投稿: 孫六 | 2018年2月 3日 (土) 02時03分
過去,NHKで、最後のだんさん、故並河淳氏があのハガネは安来でしか出来ませんと語っておられた意味がようやく理解できました。
投稿: 鋼研究家 | 2018年4月15日 (日) 14時25分
島根県の安来和彊会って、生きた強烈なテクノ文化の集合体に見えますね。時間と空間をも変化させるエネルギーを感じます
投稿: 高田 | 2018年6月 2日 (土) 20時08分
日本人として誇りに思います。
投稿: 新潟 | 2019年1月21日 (月) 22時11分
ここの製鋼の精錬技術は優秀です。
投稿: カーバイトノロ | 2019年2月14日 (木) 22時50分
海綿鉄に関わった人々は、英雄でも戦士でもない。真の侍達の姿がここにある。
投稿: もののけ姫 | 2019年3月27日 (水) 09時00分
仕事とは人に感動を与えることですね。彼らの生きざまを見てそう思いました。頭が下がります。
投稿: 北海道 | 2019年4月14日 (日) 00時24分
海綿鉄伝説と戦士達の話しを聞いて益々安来の地を見直しました。これこそ感動です。
投稿: 日本人 | 2019年6月22日 (土) 20時43分
ハガネの街安来、独特の風土から生まれた鉄の文化、島根。先人達の凄さ。素晴らしいですね。
投稿: 鈴村 | 2019年11月22日 (金) 10時46分
伯太町にある比婆山久米神社や、安来港近くの十神山にも行ってみたいです。
投稿: 大同観光 | 2021年9月19日 (日) 10時45分