0503250・ニッポン泥棒/大沢在昌
ニッポン泥棒/大沢在昌
東京 : 文芸春秋、2005.1
561p ; 20cm
ISBN: 4163236309
著者標目: 大沢、在昌(1956-)<オオサワ、アリマサ>
分類: NDC8 : 913.6 ; NDC9 : 913.6
所蔵図書館 6 [ByWebCAT 2005.03.25]
帯情報
「ヒミコ」を解凍せよ
あらゆる諜報機関から極秘データを盗み出して作られた、驚愕のコンピュータソフト。
その争奪戦に巻き込まれた男の運命は?
膨張するネット社会への恐怖と人の心の強さを問いかける、大沢在昌のサスペンス巨編。
「『ヒミコ』をゲームとして楽しむためには、現実には決して起こりえない設定が必要だったんです」
「それでイレイスか……」
「神様ごっこだな」
細田が吐きだした。
「バーチャルの世界の中で、神様ごっこをするつもりだった。だがそれを知った、現実世界の神様ごっこ好きが、手をのばしてきたというわけだ。神様ごっこは、どえらい銭になると読んで」本文より
Mu感想
よい作品だと思った。読んでもらいたい層は、ほぼ全年代層、男女を期待するが、とりわけ日頃はミステリもサスペンスも手にしない、50代より上のおじさんや、30前後のはたらく未婚の女性たちである。
次に、ここまでは言ってよいと思って記してみる。
主人公は64歳で、リタイアした、もと商社マン。退職時に離婚を宣告されて、独り住まいである。
もう一人は30歳の、大学院を目指し、夜は六本木で勤める未婚女性である。
この二人は、なんらかの理由があって、膨大なインターネット上のデータの中から、アダム4号、イブ2号として選ばれた。
二人は環境も異なるし、年齢も34歳開いている。両者の間にまったく関係はなかった。とくに男性は、コンピュータとは完全に無縁であり、インターネットを自分からみたこともない。まして携帯電話すら持っていない。
この二人が何故選ばれたのか、なかなかわからない。しかし、わからないだけなら、解がでてきても狐につままれたようなもので、感動はなかろう。そこで、その経緯を知っていただくためにも、冒頭にしるした読者層にぜひ読んでもらいたいところだ。作中では、とにかくこの二人がそろわなければ、世界中の諜報機関が探し追い求めるシステム「ヒミコ」にはアクセスできない、作動しない。ヒミコは、実質的に今まで無かった、これから現実に生まれるかも知れない兵器である。いやすでに、作者が造ったのだから、もう某国にはあるかも知れない。多くの世界は、知らないだけだろうか。その兵器ヒミコが世界で使われると、背筋が寒くなる。破壊力や影響力ははかりしれない。歴史が変わってしまうほどに。
Muは長年こういう世界をぼんやりと考えてきたので、よけいに作者の精勤がよくわかった。
Muはしかし、今回の作品については、最終兵器とか、諜報機関とか、公安、公調、CIAとかいう背景事情や、若者数名がインターネット上に造ってしまった「ヒミコ」とかアダムとかイブとかいう先端のシステム事情が「見所、読みどころ」と言っているのではない。それだと、好き者以外の50代以上男性や、30代前後女性が読まなくても、読者層は他に求められる。
もちろん、錯綜する情報機関の複雑怪奇なからみ、敵と味方が流動していくダイナミックなストーリー、よくこんなシステムやキーシステムを考えたものだと喝采を送りたくなるような「細部」、「サスペンス」は一流である。そんなことは、大沢ファンであれば、一定以上保証されている。
なぜMuBlog記事をたてて、サスペンスもミステリも手にしない読者層にすすめたかったのか。
それが、この本の謎の核そのものである。
だから、この感想には、小説の表層的評価内容しか記していない。
Muは、この作品で過去と現在と未来とを、しばらく呆然と思い返し、死する日までの、おだやかな決意を新たにした。そう、未来をすら思い返させる力を、この作品は持っていた。すばらしいことだ。
追伸:カバータイトル「ニッポン泥棒」は、京極夏彦さんの字です。
再伸:もし多少オタクっぽい読者なら、それこそ、この図書の深層を読み取り把握することに努めてください。
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