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2005年2月 4日 (金)

0502041・カタコンベ/神山裕右

カタコンベ / 神山裕右著<カタコンベ>. -- (BA68235214)
  東京 : 講談社、 2004.8
  335p、 図版 [1] p ; 20cm
  注記: 参考文献およびインターネットホームページ: p324-325
  ISBN: 4062125358
  別タイトル: Catacumbae
著者標目: 神山、右<カミヤマ、ユウスケ>

第50回 江戸川乱歩賞受賞作
所蔵図書館 54 [By Webcat 2005/02/04]

[Mu註]
 新潟県の西部で大規模な鍾乳洞が発見されたが、事故があり行方不明者がでた。
 黒姫鍾乳洞と名付けられた。
 5年前に父親をその近くのヒスイ峡洞で失った水無月弥生は大学で古生物学を修めていたが、恩師から「ヤマイヌ:ニホンオオカミ」らしき生物痕跡があるという誘いに応じて、鍾乳洞探検隊に加わった。しかし、100メートルもある縦穴に落盤があり、そのうえ折からの大雨で鍾乳洞内は水かさがまし、鉄砲水にも襲われた。同行者の中に殺人犯のいることも判明し、一行はパニックに襲われつつ、命を落としていった、……。
 著者は24歳と、最年少の江戸川乱歩賞受賞のようだ。写真もあった。

 私は観光鍾乳洞がとても好きなので、このテーマだけでも気に入った。しかし作中の鍾乳洞は新発見、人跡まれな自然の荒々しさに包まれていて、出入りは、底から空が見えないような深い縦穴という設定に恐怖した。
 洞窟探検をケイビングというらしく、探検者はケイバーと呼ばれている。山に登る人は日本にも多いが、洞窟探検の愛好者は少ないらしい。まして今作では地底湖、水かさのます鍾乳洞と、危険きわまりない設定である。準備にもお金がかかり、危険性も高く、西欧ほどには普及していないスポーツとのことだった。

 作者は、このケイビングの経験がないと書いてあるが、それにしては鍾乳洞内での動きはリアルに緻密に描かれていた。どんな風にして縦穴を上り下りするのか、装備はどのようなものか、測量して自ら地図を作っていくとはどういうことなのか、そうした一連の手続きや、なぜ巨大な鍾乳洞が短時間で水没するのかという、さまざまな科学的事実が丁寧に描かれていた。もちろん熟練のケイバーが読めばなにかと見つけるかもしれないが、一般の私は、ころりと真剣に気持ちよく騙された。いや、いまでも「ああ、洞窟探検って、そうなんだ。危ないなぁ」と信じているから、騙されたというのは言葉の綾である。

 後味も悪くなかった。最近は、この後味というのが気になるようになってきたので、ミステリの結構と同じ比重をもつようになった。
  いま私は、この手の小説を次のような要素で、ああだこうだと思っている。

  主題:歴史、伝奇、冒険ものが好きである。
  構造:破綻はない方がよい。不自然だとしらける。
  人物:何人かはまじめな人物がいたほうがよい。破滅的な人は好かない。

 で、5段階でみてみると、{5(鍾乳洞)、4(救出劇)、3(好みと嫌みで中和)}。15点満点で12点だから優の評価になる。

 この江戸川乱歩賞は選者評がとてもおもしろい。各選者は歯に衣着せない。だから、抄出しMuの感想を記しておく。以下評者の前の記号は、評者の神山さんへの評価を、◎(良し)、○(まあ)、■(うーん)と見ていると、Muが一般的読み(深読みはしていません)から付けたものです。

◎綾辻行人

 「良くも悪しくもB級ハリウッド映画的なサスペンス&アドヴェンチャー--ではあるのだが、特異な極限状況下での殺人事件とその犯人探しの興味を盛り込みつつ、ラストまでスピーディに読ませる。せっかくだから犯人探しの部分にもっとひねりの利いたロジックとサプライズの工夫が欲しかったところ」
 作品の長さから、スピーディさが丁度ほどよいところだった。大長編でスピーディだと、サスペンスの繰り返しが多くなりがちで、目がちかちかするだけに終わり、飽きてくる。このカタコンベは、腹八分目のサスペンスで胃にもたれなかった。
 ロジックの工夫については、これは、……。評者が本格だから、ちょっと。Muはこれくらいで良いと思った。あまりに難しいと頭に入らないし、肩が凝る(笑)。
 綾辻さんの、若い作者への眼差しがつたわるよう評価でありました。

■井上夢人

 「荒削りという以前のあまりにも稚拙で無神経な文章や、粗雑な小説の造りが、脱出劇の面白さを削いでいる」
 そうですねぇ、……。厳しいな。単行図書の時点で改稿があったようなので、文章は普通でした。
 脱出劇の面白さはありましたから、井上さんのお気持ちがよくわかりません。

○逢坂剛

 「作家としての想像力には十分に恵まれている、といえよう。ただし、意外であるべき犯人の設定に説得力がなく、犯行の動機が弱い。文章も、視点の乱れる箇所がかなりあるほか、」
 Muは、作者がその想像力を小説の中にきっちり描きこんでいるからパニックに迫力があったと思います。犯人設定は、そう言えばそうですね、まあ松竹梅で申しますなら、竹でしょうか。文章視点などの混乱は、図書では直されていたようで、気になりませんでした。

○真保祐一

 「作者自身が物語を楽しみ、かつ読者をもてなそうという意気込みが随所から感じられた」
 Muもそれを味わいました。息の詰まるような書き込みを、どこかでふわっと空中にとどめる。些末な細部の書き込みを上品にとどめ、押さえどころはきっちり書き込んである。こういう手加減は、生来のものなのだと思います。

◎乃南アサ

 「あらゆる点において、あまりにも不注意であることだ。文章の書き方、ストーリーの組み立て、下調べ、何ごとに関しても、よくいえば無頓着。大らか。だが、度をすぎれば褒められない」
 「それでもこの作品が残った。なぜなら、他の作品からは感じられなかった「ワクワク感」があったからだ。その魅力は、多くの欠点をカバーするだけの力を持っていた」
 Muは仕事の上で、ときどきこういう物事・対象に出会います。だから、乃南さんのおっしゃることがとてもよくわかります。直せるものと、直せないもの。直しても匂い立つオーラがでないものと、直さなくてもオーラに輝くもの。世の中には、凡人にはいかんともしがたい才能があるようです。

◎Mu
 そう言う意味で神坂裕右氏の今回受賞は、すぐれていたと思います。
 ただ、Mu流の危惧は、世のなか、どきどきはらはら、わくわくだけが楽しみじゃないから、何年かこういう作品で楽しませて頂いたら、その次をよろしくお願いします。ところが、Muは難しい男でして、男女の絡みはすきじゃないし、社会性あふれるのも駄目、お笑いもだめ、悪漢ものもだめ、……。ああ、こまったことです。

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コメント

カタコンベという題ですから、最初は、東北の隠れキリシタンか、秘密結社の地下組織の話かと思いました。

洞窟の探検とか、人跡未踏の場所を探検するスポーツがありますね。私が大学を卒業する頃から、ボチボチと大学にも”探検部”という体育会系のクラブが出来始めました。

山岳部の岩壁・氷壁を昇降する高度なザイルワークとカラビナ・ハーケンを打つ技術が必要です。又、スキューバの技術も必要で水中探検に必要な技術を要求されます。

洞窟での最大の敵は空気の確保とメタンガスへの恐怖でしょうね。日本は火山国ですから、地下から火山性ガスがありますから危険です。

でも、解説を聞いているとRPGのような感覚で楽しめそうな小説ですね。

投稿: jo | 2005年2月 5日 (土) 08時27分

joさん (2月 5, 2005 08:27 午前)

 カタコンベというカタカナは、ローマ史や当時ヨーロッパのことに興味がある人間には、いささか「意味重」な言葉ですね。ここらの、名称設定は難しいことです。

 洞窟探検がどれほど危険なことかが切実にわかりました。まして、その地底湖、急流、映画で見る分にはジェットコースターみたいなものですが、こういう小説になると、重々しく恐ろしい情景が展開されます。

 ガスの危険。そうですか~。

 RPG。
 RPG的な面もあるわけですが、人物視点を巧妙に切り替えているので、それぞれのカメラで見る洞窟、人、という雰囲気が実によいですね(選者から視点の混乱を指摘されたようなんですが、直ったと思います)。RPGは、どうしても俯瞰的に、神の目を意識しますが、この作品は箇々の目で描写していますよ。

投稿: Mu→Jo | 2005年2月 5日 (土) 09時30分

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