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2005年1月 8日 (土)

0501080・変わりものの目次: コレデオシマイ/山田風太郎

 山田風太郎さんを2003年~2004年にかけて集中して楽しんだことがある。
 どうにも鬱屈して、憤怒にみちた日常から、ちょっと隠れ場所がほしかったのだろう。
 隠れ場所にひそんだところで、負のエネルギーが消えるわけでもないが、その後、山田風太郎さんがとても気になってしまった。生きている間、正負、陰陽、どちらのエネルギーも、いつもと違ったなにかを生み出すようだ。

 風太郎さんの小説はおもしろすぎて、後に残らない、すかっと読めて、ばっさり忘れてしまう。忘れたといってもイメージの断片だけは、いつも頭をうろうろするので、強烈な小説だとおもっている。けれど、何がどうした、と書くにはむいていない。それがMuの風太郎さんについての相性の良さだった。

 手元に角川春樹事務所の編集者が風太郎さんにインタビューした『コレデオシマイ。』1996年12月[Muのは97年1月の第二刷]、がある。写真も一杯あって、風太郎さんのファンにとっては大切な一本だ。
 それで。
 その図書の目次がとても変わっている。目次を読むだけで、慣れた人なら風太郎さんの考え方をパッと頭に浮かべて、ふむふむとうなずいたり、苦笑いできるような内容だ。なれていない人も、相性の良い人なら風太郎さんの人生の深奥を楽しめるかもしれない。
 長いものだが、じっくり直打ちし、記しておく。途中で止めてもまた後日に入れておく。

第1章 近況について:酒もたばこもやめて長生きしても仕方ない。
  戦後、オウム事件のような奇々怪々な事件は初めてだ。
  世の中で実に悲しいのは、女優が年とるのを見ることだね。
  酒もたばこもやめて、長生きしてどうするの。
  六十五歳まで生きりゃあ、もういいのではないか。
  酔っぱらうのがおもしろいから、酔うために飲んでるだけ。
  僕はみんな独学ですよ、清張と同じですよ。
  自分を小説家だとは思わない。僕のは、まだまだ遊びだもの。
  小説のアイデアは、夢からの発想も、理詰めに考えたものも、駄目だな。

第2章 食・病・死について:人生の最大事たる死は、大半偶然にやって来る。
  幕の内弁当も西がうまい。
  昔の文学者は食べものにこだわってないね。
  美食がいいか、粗食がいいか、さて、わからなくなったなあ。
  食事の記録をつけたが、ひと月で、へとへと。
  食卓には十五さい並ぶが、妻は一さいだけだ。
  みんな死んでいき、僕だけが生き残ってる。
  男が長生きして困るのは、奥さんに先立たれることだな。
  僕はあまり死ぬことを怖がってないね。
  乱歩、毛沢東、ドストエフスキー、パーキンソンは大人物ばかりだ。
  墓石には「風ノ墓」と刻みたい。
  地球最後の日は必ず来るが、居合わせてなくてよかったよ。
  十代のころは自殺を考えたが、それ以後、そんな気はないね。
  人生の最大事たる死は、大半偶然にやって来る。

第3章 女性・漱石・乱歩について:僕の小説は全て、女は美人しか登場しない。
  女性の裏切りは、自己防衛のためである。
  戦前、戦後を通じて一番の美人女優は原節子ではなく、轟夕起子だね。
  僕の小説には、女は美人しか扱わないの。
  女房は若いほうがいいね。夫婦が二人してよたよたしたら困るもの。
  書くというのは、みんな、よほど楽しいことのようだね。
  僕は原稿料で家を建てた、最後の世代かもしれんね。
  お金は必要なものだけれど、毎日の用がつとまれば、それでいい。
  厚くて重い広辞苑は三冊に小分けすべし。
  漱石は明治以降の天才の中の天才だ。
  小さくなってくらすのはいい。
  漱石の奥さんは悪妻ではないね。
  乱歩さんは人のいいところばかり見つけて、激励する人だった。
  こんな手紙を書かせるなんて、乱歩先生には申し訳なさで一杯だ。
  乱歩さんが受けた敬愛の眼差しを、漱石も弟子から受けたのだろうね。

第4章 歴史の中の人物について:勧善懲悪は気持ちよいが、悪人には興味あるねぇ。
  もう十年生かしたかった人物の第一位は信長だね。
  秀吉をドラマ化するとは、NHKも度胸がいいね。
  秀吉が甥の秀次を殺したのは、秀次が女にもてるものだから。
  「おれとともに滅んでくれ」と、僕は秀吉のようにはいわんがねぇ。
  武田は小説になるけれど、上杉は小説にはならんなあ。
  勝つためには、美学なんていらんよ。
  室町時代がおもしろいのは、奇々怪々な世の中だからだよ。
  悪人には興味がある。なぜこの悪をなすに至ったかということに。
  僕の中には、婆娑羅に共鳴するものがあるのかもしれないな。

第5章 明治について:明治には偉人が多いが、明治という時代は恐ろしい。
  谷崎潤一郎のように、あれほど自分の欲望を発揮した人はいないな。
  明治の作家はみんな偉いね、偉人だねぇ。
  漱石と鴎外、作家としては漱石のほうが上だろうね。
  戦争に負けてみると、残ったのは歌舞伎と俳句しかない。
  永劫回帰ね。いま話しているのが二度目かどうか、僕は知らんよ。
  読者にいっぱい食わすのに、快感を感じるところがあるねぇ。
  明治という時代は、恐ろしい時代だね。
  みんな不平をいうけど、戦後は日本の歴史の中で一番幸福な時代だ。

第6章 人生について:やりたくないことはやらないのが、僕の人生のモットーかな。
  やりたくないことはやらない。まあ、横着ということだ。
  僕の物語をつくる才能は、両親を早く亡くしたことと関係がある。
  今やりたいこと? 何もないなあ。
  中学時代、よく寮を抜け出し、映画を見にいったものだ。
  母親が亡くなってからは、精神の酸欠状態が続いた。
  僕は親父を見ていないから、子供をどう叱っていいかわからない。
  僕は、小説を書くために生まれてきたようなものだ。
  作家商売を続けるのに必要なのは、でたらめな話をひねり出せる才能。
  僕が一番好きな最後の言葉は、勝海舟の「コレデオシマイ」。
  ちゃらんぽらんなりに僕の仕事もこれが限界だったのかもしれん。
  一所懸命にやらないというより、やれないというのが、僕の弱点。

以上、コレデオシマイ、Mu入力す。

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コメント

何か読んでて、梅安さんみたいな御仁ですね。

片方は物語を創る人、片方はパソコンを創る人。

ついつい、山田風太郎、ヤマダプータロウと聴こえそうです。しかし、彼の人生観はそれなりに、共感を覚えますね。

彼は小説を書いて、多くの人々に喜んでもらう。徳を積んでいる訳ですよね。

彼の小説では、確か、女忍者の話がありましたよね、多少お色気風のやつ、そんな印象があります。

投稿: jo | 2005年1月 8日 (土) 09時27分

joさん (1月 8, 2005 09:27 午前)
 長期間、名のみ知っていて読んだことなかったんだけど、昨年、一昨年、まとめて2ダース前後はよみました。
 もっとかな。

 どうも、識者の話を拾いあつめると、風太郎爺さんはまれに見る天才クラスだったようですね。

私は一応、いまのところ4つに分けています。

1.くのいち、もの。これはきはずかしくって婦女子・学生には、口にすらできません(赤面)。なれど、超絶におもろい(笑)ここまで、次々とアイデアがわくのかぁ〜。ですね。

2.室町物、「婆娑羅」なんかが幽冥ですね。1とひとしいところ一杯ありますが、司馬さんの書きしぶった中世を、かっちり書いてはります。

3.明治物。これは警視庁とか幻灯辻馬車とか、幕末以降の明治初年を背景にして、ものすごく、心にしみこみます。なかなか、というか、その才能のありがたさに、手をあわせ拝みたく、なります。新撰組後日談もちょっぴりあります。お色気はほとんどないですね。

4.臨終なんとか、とか、このコレデオシマイ。ノンフィクションものですね。臨終なんとかは、たしか評判になりました。おもしろくって止まりません。

 そうですね。Muは、全部好きですね。
 忍者ものでは、どっかに書いたのですが、短編として本多佐渡守でしたか、これは凄い。絶品ですね。

 世の中には、ものすごい作家がおられたようです。
 生前よまなかったのは、はははは、あまりにクノイチものなんかの表紙がえげつないのが多くて、書店で買えなかった、そういうわけです(激笑)

1. 柳生なんとか、が好きですね。
2. 婆娑羅が好きですね。
3. 警視庁なんとかが好きですね。
4. 臨終なんとか、が好きですね。

いちいち書名を確認せず、すみません。葛野には一冊たりともおいていないのです。教育上の影響を考慮して(またまた、爆笑)

さて、ちかごろ、飛行機の墜落をとんと目にしませんね。社長として禁止束縛をうけてはるのかな?

投稿: Mu→Jo | 2005年1月 8日 (土) 12時58分

そうですか。くのいち以外に色々書いておられたんですね。知りませんでした。

婆娑羅ものは面白そうですね、例の佐々木道誉でしたっけ?近江の大名で。信長も婆娑羅に近いかも知れませんね。

Muさんが言うから間違いないでしょうから、面白い作家の一人なんでしょうね。

飛行機ですが、明日、千葉に飛ばしに行きます。横浜3人組で行きます。墜落、御期待あれ。

投稿: jo | 2005年1月 8日 (土) 16時38分

joさん (1月 8, 2005 04:38 午後)
 臨終図鑑、かな?
 これがよろしいな。

投稿: Mu→Jo | 2005年1月 8日 (土) 21時57分

 Muさんは、見てらっしゃらないと思うけど、お正月に漱石の孫と漱石の奥さんが書いたものをもとにしたテレビドラマがあったんです。

 あまりのおもしろさに、おなかかかえて笑ってしまいました。
漱石の奥さんの「鏡子」さんは、宮沢りえさんが演じていらっしゃいました。悪妻名高い鏡子さんですが、とってもオチャメで可愛い鏡子さんでした。

 本木雅弘さん演じる漱石の食べっぷりがスゴクて、脳を一生懸命使って小説を書いていた本当の漱石も、大食漢だったのかもしれないと思いました。
 漱石山房に出入りする弟子たちも、異様で、さもありなんという感じでした。

 「漱石は明治以降の天才の中の天才だ。」・・・風太郎さんも漱石びいきで、とってもうれしいです(喜!)。

投稿: wd | 2005年1月 9日 (日) 12時10分

wdさん (1月 9, 2005 12:10 午後)
 そうですか。
 その本木+宮沢は、見ておくべきでしたね。
 鏡子悪妻説よりも、漱石発狂説のほうが信憑性は高いように思われます。

 山田風太郎さんは、漱石を随分尊敬しています。
「ああ、それにしてもあと数ヶ月の生命を与えれば、『明暗』は漱石の最高傑作として完結していたであろう。これこそ、もう少し生命をやりたかった最大の人。(人間臨終図巻)と、引用がありました。

投稿: Mu→Wd | 2005年1月 9日 (日) 16時33分

とても遅ればせながらあけましておめでとうございます。
お正月のテレビドラマ、私も見逃してしまいました。
漱石の卒論で余裕の卒業(!?)をさせてもらった私としては是非見ておきたかった所です。

鏡子が悪妻であったか否かにかかわらず、漱石は日々の生活にいろいろやきもきしていた、そんな感じを卒論執筆中は覚えていました。

山田風太郎さん、教育上考慮しておかれていなかったということは忍法帖は私が店頭で購入するにはちょっとはばかられるでしょうか…?(笑)

投稿: J-NETTER | 2005年1月10日 (月) 15時22分

J-NETTERさん、 (1月 10, 2005 03:22 午後)

1.J-Netterがなぜ18禁の風太郎爺さんに? と、おもったが、よく考えると君の卒論は某関センセの指導でしたか、夢千夜じゃなかった夢一夜、うん? ああ、夢十夜の第一話でしたな。短いのを選んで、友人諸子からずるいと、おもわれないかと心配しとりました。

2.MuBlog来訪者には漱石フリークの猛者が顕密、両方1ダースはおるので不用意な発言は避けます。悪妻ではなかった。

3.風太郎爺さんは、J-Netterさんみたいに気性がおだやかな方(豪笑)なら、まず、河出文庫の明治物、

 警視庁草紙(上下)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309404111/qid=1105339809/br=3-7/br_lfncs_b_7/249-3688454-0294735
 幻灯辻馬車(上下)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309403980/qid=1105339809/br=3-4/br_lfncs_b_4/249-3688454-0294735
 
 でしょうか。
 幕末から明治に移った、その背景が丁寧に描かれています。授業科目みたいに、「はい1限、情サ終わり」「はい、2限、分類です」とはならない。前者には新撰組の斉藤一さんかな、すがたを見せます。
 河出文庫は、まだ数点しか読んでいませんが、明治物で、よいですよ。

 で、お楽しみの(爆笑)ものなれば、そうですね、お忙しいでしょうから、短編で、

「かげろう忍法帖—山田風太郎忍法帖〈12〉講談社文庫」
このなかの忍者本多佐渡守、よいです。

長編では、
「柳生忍法帖(上下)—山田風太郎忍法帖〈9〉講談社文庫」、でしょうかね。

 まあ、根性いれて、講談社文庫の山田風太郎を1から全部読めば、よろしいな。ちゃんと普通のコーナーに置いてありますから、君でも買えます。カバーは付けてもらった方が心臓によいです。

投稿: Mu→J-Netter | 2005年1月10日 (月) 16時06分

訂正。
風太郎さんの明治物は、筑摩文庫の方が入手しやすいはず。
いま、手元に本当にないので、不明確ですが。
おそらく、筑摩文庫は新しいはずです。

投稿: Mu→J-Netter | 2005年1月10日 (月) 16時10分

>ああ、それにしてもあと数ヶ月の生命を与えれば、『明暗』は漱石の最高傑作として完結していたであろう。

 これよくわかります。水村美苗さんという方が「続明暗」というのをお書きになって、出版と同時にすぐ買ったのですが、読めませんでした。
 「続明暗」は、確かに文体は似せて書いてあるし、一つの別の小説としておもしろいとの評価もされていました。でも、書かれなかったものは、書かれないままで残しておこうと思いました。

 漱石の私生活がどうであったかなどは、たいしたことじゃなく、私にとっては漱石が創り出した作品が大切です。だからこのテレビドラマは、素直に楽しめました。
 でも、完結した「明暗」は読んでみたかったなと思いました。

投稿: wd | 2005年1月10日 (月) 17時23分

wd さん(1月 10, 2005 05:23 午後)
 実は、相変わらず、漱石先生への言及ができないMuでありまして、しかたなく、別に記事を立てておきました。
 将来、元気がわいたなら、漱石をもう少し読み込んで、Wdさんのコメントにお答えできるようにいたします。
http://asajihara.air-nifty.com/mu/2005/01/0501100.html

 奇妙奇天烈なことと思われましょうが、Muは人間のでてくる小説が、読めないようなんです。

投稿: Mu→Wd | 2005年1月10日 (月) 18時45分

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