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2004年11月28日 (日)

日本・文学・小説:凍える牙/乃南アサ

凍える牙/乃南アサ著
  東京 : 新潮社、2000.2
  520p ; 16cm
  (新潮文庫 ; の-9-10)
  ISBN:4101425205
著者標目:乃南、アサ(1960-) 〔ノナミ、アサ〕
分類:NDC8:913.6、NDC6:913.6

帯情報

「深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた―。
女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。 」

Mu注記
 帯情報からどのくらいのことが分かるか、一度試してみよう。
 こういう記事を書くのは誰なのだろう。おそらく編集関係者だろうが、なかなかに難しい。
 ネタバレしないぎりぎりの線で読者を惹きつける書き方。

  男が突然炎上する。
  野獣連続咬殺事件。
  警視庁機動捜査隊。
    音道貴子(おとみち たかこ)。
    滝沢デカ。
    怨念。
    女性刑事。
  直木賞。
  ベストセラー。

 炎上する男。ガソリンでもかけられたのか、それなら面白みはなくなり、現実の暗く悲惨な事件のコピーになる。
 咬殺となると、熊に咬まれたとか、飼い犬に子供が咬まれたとかは目にするが、「連続」というところで、おやっと思う。
 ここで、最初の「炎上」は導入部にすばらしく達者な筆致で書いてある。だから立ち読みすると、ここだけで動かなくなり、しばらくすると文庫を持ってレジにむかうかもしれない。
 ところが後者の、咬殺が実は小説として重くなる。

 さて、警視庁機動捜査隊とはなにか。この言葉と「トカゲ」という隠語とがペアになって、終盤に華をそえる。
 華を添えるどころではなく、華も実もあるミステリとなった。それが直木賞とかベストセラーという「重みと軽薄さ」とを足した世界に作品を導いたのだと思う。賞も売れ行きも、作品との相関はある程度のレベルで一般解を出すだけで、MuならMuがどう思うかとは、別のこと。

 それにしても、女流が、男の鬱屈した冴えない組織での苦渋をきっちり描いていた。脂ぎってクサイ風体の、嫌みで、男尊女卑で、まさしく中年男。デカチョウ滝沢。男も、ここまで描かれると立つ瀬がないが、それでもリアルだ。だがしかし、女の宇宙人的所行、不可解さ、粗雑さもきっちり描かれている。デカチョウから見た音道貴子、貴子から見たデカチョウ、そして家族。
 そういうリアルな世界の描写に終始しているのでは決してない。そういう土壌のなかに、なお立って、貴子が夜の高速道路をバイクで走り抜ける、その鮮やかさに瞠目した。

 ポケットベルと公衆電話しかなかった時代の作品なのに、いま発表されたような、新鮮さであった。
 極みは、「疾風(はやて)」の造形が、鬼気迫る手練であった。

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コメント

これを読んだのはかなり前だったので、ほとんど忘れかかっていました。女性刑事だとか、疾風とか、焼ける男だとか、そういうもので物語の断片が思い出されます。文庫本の解説がつまらなかったことも。ともあれ、こういう作品が「売れて」「儲かる」んでしょうね。

投稿: morio | 2004年11月28日 (日) 23時36分

morioさん、 (11月 28, 2004 11:36 午後)
 いつものように深夜目がさめて、みたら、morioさんのコメント。
 なんとなくご実家blogの流れがMuBlogへ浸みだしたような、ほほほ、そんな感じですね。
「売れて」「儲かる」でしょうね。Muが編集なら、これを売らずして何をうる、のノリノリで売りまくる。で、現実に売れたのでしょう。当時、Muが読まなかったのは偏屈だったからにすぎませぬ。

 ただし。文学は多様だから、こういう面白くてスッキリしたものに味わいを知る人もおれば、そうでないひとも、現実に多数知っております。Muは、こういうなのは好きな方です。

 一般に真似の出来る雑文や小説も多々ありますが、『凍える牙』は緻密ですから、真似がしにくいですね。読者や識者が「力業(ちからわざ)」とおもうような、「情報」部分、つまり殺害の方法や、疾風の造形なども、あまたの情報の中から必要なものを抽出し、組合せ、まとめ上げるのはそんなに易しいことではないようです。
 同じプラモやキット模型を作っても、XやMuやYが作るのでは、まったく違ったことになる。「同じでしょう?」と思うところが素人さんで、別物になるのが現実。
 別物、初物と思わせるだけの文章や構成力は、うーん、それこそ才能なのかな。

 ……
 というわけで、morioさんも、こういう作品を覚えてらっしゃったのは、なにかの証。と、それがオチでした。

投稿: Mu→morio | 2004年11月29日 (月) 00時52分

先生、おはようございます。
 私は乃南アサさんは「鍵」を読んだことがあります。
 最近、推理小説から離れてしまっていたので、また読みたくなってきました。

投稿: 羊 | 2004年11月29日 (月) 07時14分

羊さん、 (11月 29, 2004 07:14 午前)
 気がついたら夕方でした。
 乃南さんは、これが初見なので、もちろんMuは「鍵」をしりません。なんとなく谷崎潤一郎世界のようなタイトルですね。

投稿: Mu→羊 | 2004年11月29日 (月) 17時33分

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