北方謙三『水滸伝』五「玄武の章」
巻末に至ったとき、気づいたのだが、この章で第一部終了となっていた。
旅の途上宋江が、江州、長江の中洲の砦で軍に囲まれる。この緊張のなかで宋江のひととなりがますます明瞭になってくる。人心は彼の茫洋さ、落ち着きをみ、かえって奮起する。
寨外、北の遼の国、女真族に単独行していた魯智深(ろちしん:大男の坊主)は手を鎖でつながれていた。救援一名、手首を切って脱走した。
楊志(ようし:梁山泊、最強の将軍)が暗殺された。梁山泊の名札が初めて裏返しにされ、楊志は赤い名札となった。
150名の青蓮寺エージェントに捕捉された。
息子のなついていた、馬桂(ばけい:今は青蓮寺工作員)の犬が仇になった。
「矢。飛んでくるのが見えた。剣で払っていた。正面の敵。斬り降ろした。背中を、斬られた。ふりむきざま、楊志はその男ののどを斬った。口から、血が噴き出してくる。それを吹き飛ばし、楊志はさらに駈けた。叫んでいる。地が、樹木が、天が。また、口から血が噴き出した。視界が、白くなった。それでも、立っていた。躯は動いていた。
ふり返る。楊令。済仁美に庇われるようにしながら、顔だけをこちらにむけていた。眼が合った。笑いかけようと思った。笑えたかどうかは、よくわからない。父を見ておけ。その眼に、刻みつけておけ。」
部下の石秀が駆けつけたとき、数十本の矢をうけた楊志が立ったまま死んでいた。青蓮寺の死骸は百名だった。
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