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2004年9月 3日 (金)

ヴァンパイア・レスタト/アン・ライス

 アン・ライスの『ヴァンパイア・レスタト』を手に取ったのは偶然だった。
 どこの書店で買ったかも覚えていないのだが、こういうコーナーがあって、類書が平置きしてあった。ついたてがあって、どこかスーパーの上階(といっても、職場近くには数カ所ある)で、知らぬ間に買っていた。
 扶桑社ミステリー、文庫上下。1994年1刷り、2004年20刷りだった、よく売れた本のようだ。

 偶然とはいっても、一つだけ惹きつけるものがあった。装幀ではない。
 「レスタト」という文字だった。実に、耳に心地よかった。

 なにかしら記憶にあるので、今夜読了後、後書きやネットをみて、納得した。

 つまり、映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(原作 夜明けのヴァンパイア)の二作目だったのだ。この映画は、観たはずだが、記憶は薄い。調べると、トム・クルーズとか、ブラッド・ピットの主演で、その上夭折したリバー・フェニックスもでるはずの話題作だったようだ。にもかかわらず、この映画は実に記憶が薄い。
 むしろ、ゲーリー・オールドマン(私の愛惜する男優である)の「ドラキュラ」の方が鮮烈な印象と悲しみを覚えている。

 というわけで、アン・ライスのヴァンパイア・クロニクル物の第二作を私は、なんの定見も予備知識もなく購入し、読んでしまった。

良い点:
 レスタトのヨーロッパ放浪、そして伝説の師「マリウス」による、ヴァンパイアの源流まで遡るケルトの時代、エジプトの時代の語り。
悪い点:
 女性作家が記す、ホモセクシャルな雰囲気がなじめない。最強のヴァンパイア・レスタトが、美形に逢うたびに惚れて、苦しみ、泣く。「うるさい」と言いたくなる。そしてレスタトの愚かさ。愚かさで場面が展開していく。「またやった、アホ」と叫び続けて読み終わった。

総合:
 筆力がある。
 キリストのいないイシスとオシリスのエジプト、ファラオもいない世界までの沈降。そして、レスタトが彷徨うヨーロッパの描写、建物、風俗、美。欠点を補ってあまりある。

 レスタトの愚かさぶりは「腕白坊や」と、表現されたところもあるので、これは女性作家の女性サービスかもしれない。またホモセクシャルと言っても、なんとなく宝塚の男装の麗人が抱きあう雰囲気なので、これも女性サービスかもしれない。

 アン・ライスはとても思慮深い作家だと思うところがいくつもあった。叡智。洞察力にあふれていた。
 また、レスタトの母親(瀕死の彼女をレスタトがヴァンパイアにした)ガブリエルの力強さと自立心は驚嘆に値する。余計にレスタトが愚かしく見える。

 下巻での、マリウス師匠の言葉には、人生の秘密が隠されていた。不死であることを、どう乗り切るのか。ホラーとか、耽美とか言う前に、深い内省があった。
 マリウスは、不死のレスタトにいう。一度は人間に交じって、人の一生分の人生を経験し味わわねばならないと。

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コメント

おはようございます。
 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」は見たのですが、原作本は読んでません。先生の説明を読んでいると面白そうで、誘惑に負けてしまいそうになり本当に困ってしまいます。(そうでなくても読みたい本が山積みなのに・・・)
私がヴァンパイアに関する小説で初めて読んだのは、スティーブン・キングの「呪われた町」集英社文庫です。怖いですね。でも、ヴァンパイアって少しロマンチックな気がするんです。美女の首筋から血を吸うイメージからでしょうか?

投稿: 羊 | 2004年9月 3日 (金) 08時51分

羊さん
 ともあれ、そのキング「呪われた町」集英社文庫は大切に保管なされるのがよいです。私は大昔、その映画かTVを見た記憶があるのですが、明瞭ではないのです。ただ、とても怖くて、少年がかわいそうに思えた、そんな記憶があるのです。

 近頃、文庫は絶版が多くて、再度調べますが、いろいろな不運で、いままで入手できなかった文庫です。

 さて「ヴァンパイア・レスタト」いい、響きじゃないですかぁ。
 かつて18世紀フランスの貴公子だったレスタトは、今回、初っぱなから現代のヒーロー、ロック界の超新星として登場するのです。そうして、延々と過去の因縁話が続き、最後に現代にもどって、1万5千人の渦巻く会場で、レスタトが3時間どのように絶叫し、どうなるのか!

 いやはや、小説は、よろしいもんですなぁ。

投稿: Mu | 2004年9月 3日 (金) 09時16分

はじめまして。
私も1999年にTVでインタビュー・ウィズ・ヴァンパイアを見てから大のレスタトファンです。
DVDはもちろん、原作本もすべて持っています。
実は以前あるイラスト系レスタトファンHPで、そこの管理人さんにアンライス作品や、Real Playerの動画の保存方法などいろいろ詳しく教えてもらったので、お礼のつもりでそのHPの掲示板に返信の必要のないような当たり障りのない短いコメントを投稿してたのですが、ある日管理人さんが「話し相手が欲しいなら、うちのHPとは違ってゲスト大歓迎の小さなHPがほかにいくらでもありますよ!」と書いてきたのでびっくりしました。

後になってこの人のプロフィールを読んだところ、鉄道自殺願望で精神病関連書を読みふけるような暗い少女時代&自分の子供は登校拒否児とありビックリ。最初にプロフィールを読んでおくべきだったと後悔しました・・・

(このことを友達に話したところ、「そんなパソコンが友達みたいな精神◎◎[Mu、伏せ字に修正]と関わると自分までノイローゼになるから義理などに思わずにもうHPには行かない方がいいよ」と忠告されました。)

みなさんも気をつけてくださいね。

投稿: ひろみ | 2007年5月13日 (日) 11時21分

ひろみさん、始めまして。
コメントありがとう(笑)

「返信の必要のないような当たり障りのない短いコメントを投稿」

 当MuBlogでは、返信の要不要に関わらず、返礼コメントを前後して書き込むのが、国是というか、Mu大帝国皇帝の考えなので、そういたします(と、解説付き)。

 あなたが、性別年齢職業、どんな方かは存じませんが、ネット世界は現実の写像(写し絵)、鏡ですから、現実にあることは何でもあるし、逆に怖いことにネット上の妄想は、すべて現実にあると思います。

 だから。年齢とか経験によって、近寄ることや、逃げることや、無視することや、入れ込むことを、少しずつ練習してください。
 危ないとおもったら、携帯にしろパソコンにしろ、ネットを遮断するのがよいと思います。

 そう言えば、レスタト世界は、怖いですね。彼が現実の人なら、Muは遠くから望遠鏡で眺めておきます。

投稿: Mu→ひろみ | 2007年5月13日 (日) 11時36分

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» 呪われし者の女王/アン・ライス [MuBlog]
承前[MuBlog:ヴァンパイア・レスタト] 呪われし者の女王(上) 二冊、ずっしりとした読み応えだった。  今回は、以前の主役だったヴァンパイア・レスタトの役割が説明しがたいところがあった。先回の結末は、最高のロックスターとして復活したレスタトに向かって、世界中のヴァンパイアが憎悪と憧憬を持って米国サンフランシスコへ集まったわけだが。  憎悪は嫉妬と怒りだった。輝くような不死を持ったレスタトへの嫉妬。そして怒りは、呪われし者達=ヴァンパイアの秘密をすべてさらけ出し、ステージに身をさらし歌い踊り狂う... [続きを読む]

受信: 2006年1月 4日 (水) 19時35分

» ヴァンパイア映画:アン・ライスのレスタト [MuBlog]
承前[MuBlog:ヴァンパイア・レスタト] 承前[MuBlog:呪われし者の女王]  文系大学の良さというか面白さというか、レスタト愛好者とか、カミラそのものとか、ゴシック様式幼系コスチューム(一般に、ゴスロリとか言うらしい)とか、レスタト映画鑑賞会とか、ともかく壮年層の世界とは異なった不思議な雰囲気が、日頃行き来す... [続きを読む]

受信: 2006年3月13日 (月) 00時59分

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