『天人五衰』の分析終了
今日、2004年9月25(土)の午後に、三島由紀夫『豊饒の海』最終巻、「天人五衰」を分析終了し、4年間かけた研究も一区切りがついた。
さすがに、学内編集者に添付ファイルを送信したあと、ぐったりした。
『豊饒の海』について、語ることは今後も終生ある。
これで終わりとは毫も思っていない。
しかし、三島由紀夫の実生活や、事件性についてはできるだけ論評をさけたい。
そういうことを解明するために、私は生まれて、生きてきたわけではないと、はっきり決めている。
『豊饒の海』全四巻は私の青春の物語であり、かつ、生涯の物語となってしまった。
だから、その世界の中を、行きつ戻りつ、迷路に迷いながら、それでも芳醇な物語のエッセンスを十分に享受して、生きるよすがにしていきたい。
さて。
第四巻『天人五衰』、最終章、第30章。
24歳の秋に読み終えた時と、一切の違いはない。
奈良、帯解の月修寺(円照寺がモデルとかいう)、また行かねばならない。
雑誌を読んだのは正確には、昭和45年末だったと思う。雑誌「新潮」の新年号じゃなかったろうか。いや、翌46年の正月、二月号だったのだろうか。
ともかく、三島由紀夫が脱稿した最終章を読み終えて、呆然とした24歳の私がいた。
物語は、ひとりの凡たる人間に、生涯刻印をおしてしまった。
いま、『豊饒の海』を語り終えて一服一休みする愉悦は、なにものにもかえがたい。
生きていてよかった、とそれが今の心境である。
さあ、長生きしよう。
追伸
ところで。
三島由紀夫文学館はいつ行けるのだろうか。
ついにギリシャの地をふまず、生涯ギリシャ、そして多島海を歌ったヘルダーリンのように、宇治川河畔の「塔」に籠もる予感もするが、それも生かもしれない。
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コメント
Muさんへ
4年にも長きにわたる、ご研究、お疲れさまでした。
最初に勤めた図書館で、「本を廃棄処分にするから、好きな本を持って帰っていいよ」と言われたことがあります。
その時、私が選んだ本が『暁の寺』でした。
三島の本ということと、暁を思わせるような色の装丁が気に入って、その本を持ち帰りました。
蔵書印がマジックで消してあって、決して新品のようなきれいさはないのですが、嫁入りの時も、引っ越しの時も捨てられず、今も持っています。
三島の記事掲載後、『春の雪』『金閣寺』を読みました。
同じ本を読んでも、人間って、自分の年齢によって、違う読み方をするんですね。
若い頃に、気づかなかった、あるいは、嫌悪していたところが、素直に認められたり、今の自分の発見にもつながりました。
また、Blog記事での『豊饒の海』最終巻、「天人五衰」も楽しみにしております。
投稿: wd | 2004年9月25日 (土) 16時44分
WDさん
天人五衰論は、年内にサイト掲載いたします。よろしく。
投稿: Mu | 2004年9月25日 (土) 17時32分
万感の思いが伝わります。
人間に生まれて良かったと。自分の人生に筋金を入れてくれる作家と作品。全身が共鳴し自分が又、新しく生まれ変わるような経験は誰にもあると思います。
私の場合は22才の大学を卒業して、東京に出てきました、大学時代より結婚する事を誓った人がおられました。しかし、どうしても事情がありそれは成就出来ない事となった。
その時に自分を救ってくれた、作家が福永武彦さんの作品”海市”でした。確か単行本が1968年に出版されました、私が22才ですね。暗い作品の印象でした、しかし幻想的な世界の中で自分を救ってくれた記憶があります。
その後は、”廃市”は読みましたが、いつのまにか齢を重ね、文学作品の好みとしては、司馬遼太郎の歴史の語りの世界に没入するようになりました。
三島文学という世界がMuさんの青春だったんですね。素晴らしい。
投稿: jo | 2004年9月26日 (日) 16時19分
JOさん
土瓶蒸しが待ち遠しいな。
梅翁は生きておるかな。今頃、繁寿司かね。
・・・
Fサガンが、覚えていないが、なんとなく、若いころ流行ったね。文学も映画も音楽も演劇も、時代性があるからおもしろい。
ところで。やはり、文学は人を滅ぼしもするけど、生き返らせもするね。
JOさん、青春に絶望せずよう生きてこられましたな。
たしかに、20代、死んだ人もいました。
生き残ったんやから、たんと余生を楽しみましょう。
私は、どうにも、隠居資金がなくってね、だからまだまだはたらかないと困る。
梅翁は、そん点良いなぁ。(これは、傷口塩かねぇ)
投稿: Mu | 2004年9月26日 (日) 19時16分