北方謙三『水滸伝』三「輪舞の章」
昨夜、八月末深夜読了。
この巻には、はじめて梁山泊全図が載っていた。
湖に浮かぶ島。
桟橋から上がると、一の木戸があり、そこには「招待所」ができていた。そろそろ入島、退島が厳しくなってきたのだが、訪れた未知のものを即座に追い払うケチな了見ではなく、緩衝地帯を設けたようだ。
そして二の木戸までの間に櫓があり軍営がある。そして、二の木戸と三の木戸の間には、櫓と軍営の他に、練兵所と収容所、さらに養生所、薬方所まである。後者がしっかりあるところと、そして関係者が安道全(あんどうぜん)、薛永(せつえい)という天才的な医師や薬師であるところに、水滸伝の多様性、面白さがある。
三の木戸を越えるとやっと中心部になる。
そんなことが見取り図をみているとはっきり分かって、文章だけでは得られない快感がこみあげてくる。これは館ミステリーで、部屋部屋、図書室や書斎や食堂や大広間などの図面でみているだけで、うっとりしてくるのと同じだろう。
今回の見所は、致死軍の活躍と調練の様子だと思った。
心優しき、鬼になれない上級幹部は退軍を命じられ、別の任務に就く。命じたのは謎多き公孫勝(こうそんしょう:総指揮官)、鬼になれないと見破られたのは石秀大隊長。わずかに部下を三名死なせただけで、石秀は致死軍を追われた。
致死軍と、青蓮寺(宋国のCIA)李富(りふ)との目に見えない地下、影の戦はもう始まった。今のところ、圧倒的に致死軍の勝利に終わっているが。しかし、李富が部下に命じて、地方軍750名を一挙に屠る荒技には驚いた。そうすることで、軍の配置をその地方に向けさせようとする宋内部での謀略である。
悲惨な人情話(宋江:主人公)も、ほのぼのとした人情話(楊志:ようし:元青州軍将校)も、ひとつづつあった。
しかし、今日は人情話にはふれないでおこう。
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コメント
何か話だけ、聴いてると面白そうやね~~。血沸き肉踊るという感じやね~~。
話はそれますが、今日、日経のWeb記事で孔子の子孫で『孔健氏』が書いた書物『中国流 不敗の交渉術』(成美文庫)の紹介があり面白かったです。
・中国人は情報を操り、相手の心に揺さぶりかける術に長けている。情報戦で、外国企業に負ける様な事はない。
・中国人は、ビジネスは人と人の繋がりで行うものと考えている。日本のように、会社対会社の付き合いという概念は極めて希薄。人を見抜く力がビジネスの原点。
・人脈は中国人にとって人生最大のテーマだ。人との出会いつながりを広め、深めてゆくことに最大の興味をもっている。このための手間や費用はいとわない。
・中国人は情報を大切に考える。始皇帝も情報操作で全土を統一した。情報を提供してくれる人をなによりも大切にし、そのために強力な人脈を求める。この人脈はあくまでも、個人と個人の関係で、会社の名刺で相手を信頼する風土は無い。
等々、頷ける話が続く。私の叔父が戦前に15年間上海に駐在していましたが、同じ内容の話を聴いていました。
投稿: jo | 2004年9月 1日 (水) 15時21分
JOさん
孔子さんの子孫って、わたしも90年半ばにどっかで見かけました。(関西学研都市での電子図書館シンポジウム)
で、ヒトのネットワークというのは、北方・水滸伝の基本テーマですね。
魯智深(ろちしん:放浪の僧)、このひとが宋江と友達で、中国全土を、ヒトを求めてさすらうのです。
すでに3巻までで、このヒトのメガネにかなって何人ものどうしようもない男達が、目をさまして、それぞれ専門職になっていくのです。
ヒトとヒトのネットは中国だけじゃなくて、日本もそうですね。比較の問題ですね。
真面目にいうと、両刃の剣ですね。ヒトのネットが、情実を生み、賄賂を横行させ、それに対して志のネットワークが、梁山泊をうみだした。ということでしょうか。
さて、風雪梅安一家は、なにを生み出すのでしょうか。
ラジコン飛行機の残骸、わけのわからんMublog、梅翁にしっかりしてもらわななぁ。
投稿: Mu | 2004年9月 1日 (水) 16時54分
このご子孫は8年前に日本に来られ、上智大学博士課程を終えて、ず~~と日本におられたそうです。
『志のネットワーク』いい言葉やね。同じ志の旗の本に集まりし異能集団が会社やろね。『志』の無い会社はあかんねやろね。
風雪梅安一家も頑張らんとあかんね。
投稿: jo | 2004年9月 1日 (水) 17時08分
JOさん、そろそろ本日ラストスパートと思って、ふとコメントみたら、はいっていたので。
だいたい今頃、5時から7時がラストスパートで、それまでは、でれでれたらたら、してしまうのです。
この時間、鍵かけてますよ。
三島論第4巻「天人五衰」、なんとかかんとか、完成させます、9月中に。
ああそうや。
風雪梅安一家ね、あの大将、浄瑠璃の太夫の練習始めるのと違うかな。心配ドス。
http://www.koka.ac.jp/taniguti96M/0/40/TamaiM/fu20040831.html
投稿: Mu | 2004年9月 1日 (水) 18時38分