北方謙三『水滸伝』二「替天の章」
今朝2004年八月二十七金曜日の午前六時過ぎに水滸伝(2)を読了。
この巻の主人公は? となると大勢の登場人物なので、決めにくいが、林冲(りんちゅう)と思った。林冲は豹子頭(ひょうしとう)ともアダナされる。要するに、槍を使うと天下無双。もと禁軍の槍師範(槍術教頭)である。15名が一挙に攻撃してきても、すべて倒す、というのだから痛快な豪傑だ。
しかし、北方(きたかた)水滸伝の豪傑は、大抵過去を持っている。彼の場合は、愛していなかった、世間をごまかすために美しい女と世帯を持った、と、そう思いこんでいた女が、彼が罠にはまったときなぶり殺しにされ、初めて好きだったことを自覚した。宋江(そうこう)との友誼をまもるために、自白せず、それが女を見殺しにしたという自責がある。林冲が捕縛されたのは第一巻で、捕縛した裏には、青蓮寺(宋帝国CIA)がかんでいたこともこの二巻でわかる。
その林冲が梁山湖にうかぶ山寨に潜り込み、数千の兵を養う王倫との駆け引きを通して、見事に晁蓋(ちょうがい)達、外の仲間を引き入れる。
そして、晁蓋はここを「梁山泊」と宣言する。
すでに、さまざまな異能集団がそこここに現れている。医者、料理人、薬草、計算、軍師、諜報、大工、……。その異能集団の異能ぶりが痛快である。医師安道全(あんどうぜん)は、林冲と地下牢を脱獄した雪道の中で、仲間の盲腸炎を見事に手術する。コンピュータのような男や、料理人朱貴(しゅき)の魚スープで作った料理のうまさ。
北方三国志で印象深かった呉の致死軍(忍者部隊)が、宋の時代に作られる。その調練の描写、指導者公孫勝(こうそんしょう)のニヒルな態度の陰に見え隠れする過去。一巻に一度は必ずある唖然とした濡れ場。
まことに、北方水滸伝は、巻措くあたはずの世界である。
これを昨日昼に半分、残り半分の七割を昨夜、そして今朝四時前に起き、六時には最後まで読んだ。
その合間をぬって、責務の論文を書いていた。
実に、仕事がはかどったので、ここに記録する。
私は、小難しい仕事をするときは、読書の合間にすると効率があがるようである。
さて、では次の仕事にとりかかろう。
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