北方謙三『水滸伝』一「曙光の章」
北方水滸伝をこの夏よみだした。昨日その一を一日で読み終えた。集英社の出版である。
現状では十四巻まであるが、いつ終了するのかまでは調べていない。やがて、終わるだろう。それまで楽しみである。
ただ、あまりに私の性情に合いすぎて、一種の中毒になるので、一週間に一冊程度にしておくつもりだ。先年、北方三国志全巻に読みひたって、日常の責務をおろそかにした覚えがある。
今回も、梁山泊、水の城塞とくれば、そして北方「男達の挽歌」とくれば、中毒を越えて本当に病臥する危険性もある。
あらすじや、登場人物については、サイトを観ていると、随分この世界も整理された面があり、私がとやかく記す必要もないと思った。となると、記事はこれで終了となりそうだが、もう少し北方謙三さんに対する読者としての、スタンスを記しておく。
北方謙三さんについては、以前まったく別テーマの記事(常照皇寺)コメントで、友人JOさんにのせられて、憤怒の筆をおろした。要するに、前後関係は忘れたが、司馬遼太郎さんのことにJOさんが言及し、日本の南北朝時代はおもしろない、という結論がでたのか。それに対して、私が北方さんを引き合いに出して、猛反発したという経緯がある。私は北方「南北朝」を以前から異様に好んでいる。
何故好むかは、今回水滸伝の記事を読んでいて、馳星周氏の惹句でやっと、気が付いた。
志のため、あるいは血の滾りのため、男たちはゆく――くさい。しかし、この「くささ」こそ北方謙三の真骨頂だ。北方版「水滸伝」を読んで、わたしの血も滾った。不覚――辛うじて涙をこらえられたのが、慰めだ。北方謙三『水滸伝』推薦文
「くささ」は昔どっぷりひたっていた浪花節、浪曲の世界かもしれない。そういえば三波春夫さんの絶唱「大利根無情」の平手造酒(ひらて・みき)には血涙をしぼった。まあ、我が性情とはそういうものであろう。
だが、くささだけでは北方三国志も、北方水滸伝も読み切れない。いろいろなところで、気持がすっとして、思い返せば人物のつながりや、場所、その伏線に気が付くところがある。第一巻では、宋の時代の闇「塩」の動きや、河川、運河の仕組みにも、そうなのか、と長嘆息することがあった。
現代の男性論理は秀才ゲームとしての組織論か、あるいはスポーツにしか生きることができない世界だから、細々しい。結局、前者は権謀術数というよりも、ねたみそねみの強い者が勝ちを制するのだから、はなはだおもしろくない。後者は、風格無き茶髪やVサインと笑顔やTV-CMでは、肺腑をつく魂の雄叫びも消えてしまう。勝者の悲しみはなく、敗者の虚ろさだけが残る。
そういう意味で、北方さんの「くさい」男達が活躍する姿は、気持が和む。血湧き肉躍るという経験は加齢の面ですぎた。ただ、男達の生や死に「そうやな、そうなんじゃ」という気持の落としどころが、綺麗に決まってくる。
参考サイト
北方謙三『水滸伝』著者からのメッセージ
水滸傳:水のほとりの物語、入門
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コメント
梁山泊の思い出
私は6年前、突然に上司に連れられ、巣鴨に構える会社の社長の前に連れて行かれた。上司、曰く、君は明日からこの親玉一家に草鞋を脱げと宣告された。突然の出来事であった。
この鹿児島出身の親玉(社長)は西郷隆盛とサンダース軍曹と、そして、梁山泊が好きであった。
私は、SEという職場の経験は全く無かった。親玉は組員(社員)を前に、私を紹介した。梁山泊という言葉を諸君は存じているか? 異なる才能を持つ人材を集めて、この組(会社)を親を凌駕する組織にしたい。従い、こいつは今日より草鞋を脱いだ。
と、説明した。彼は、その通り行動した。私も、親玉を支えた。この親爺との出会いは劇的であり、私の人生で私の長所に光をあててくれた。
親爺が組(会社)を捨てて、辞を述べた、感動的であった。
・F組(社)の背広を脱ぎ、裸で勝負をしたい
・1部上場の組長の指揮をとり自分の実力を試したい
以上である。この行動は大波紋を起こした。私は、彼には従わなかったが、別の世界が又、待ち受けていたのでした。
投稿: jo | 2004年8月24日 (火) 13時39分
JOさん
「西郷隆盛とサンダース軍曹と、そして、梁山泊」
この言葉はわかりやすいです。
ただ一般に同世代同性でないと、分かりにくいでしょうね。
1.西郷さん:超有名人ですが、司馬さんとかの幕末維新ものを読んでいないと、征韓論と西南戦争ていどしかしられていないだろうな(上野の銅像と)。私は別途必要があって若年時読みました。やはり、ものすごい人格だったようですね。
2.サンダース軍曹:われらの世代は、男性はだいたい熟知してますね。高校生くらいのときでした。いまでもビデオやDVDがときおり新聞でセット販売されているから、この男性像は、引き継がれているかも知れないけど。この軍曹をおもいだすと、人類みな兄弟、いい男は、世界中文化文明をこえて、ええ奴や。となるね。ビッグ・モローは後日撮影中ヘリの墜落で死亡とか、昨日のような気がします。
3.梁山泊:これが問題ですね。三国志は、関羽とか張飛とか曹操とか、孔明とか劉備とか・・・固有名で語られるけれど、女性にも愛好者が多いようですが。梁山泊となると、いまひとつ日本では、未知ですね。
結論:この三題噺を実業世界で現実化した親分って、ものすごい人ですね。
「心意気」は大切です。最後の踏ん張りは、眼差しや心意気が支える。だから結局良質の仲間を集めることになるでしょう。
男は自らを知る者のために死ぬ、とは遠い世界でもあろうけど、まあ、いまでもどっかに侠気はあるんだろうね。
ちなみに、女は愛する者のために化粧する、ってこれホントかな。ホントもあるやろし、化けるんやから、当然嘘っぽいことも多い。
どっちもどっち。そやけど、ヒトの侠気は、男も女もどっかにあろう。そういうなんが、綺麗にそだたないと、つまらん世界になる。
投稿: Mu | 2004年8月24日 (火) 15時54分
いま、いそがしくて、へこたりそうなのに、性懲りもなく、第二巻を読んでいます。
やはり、北方世界は、中毒症状をもたらしますね。
忙しい方は、読まない方がよいです(笑)
投稿: Mu | 2004年8月26日 (木) 15時20分