2004年8月10(火)晴:夏の深夜
丁度いま、『天人五衰』を読み終えた。
久しぶりに文学芸術というものの世界にひたった。
この『豊饒の海』第四作最終巻は、先年夏から「読後の失望」を危ぶんでいた。
しかし、なんとしたことだろう、これまで何度か読んだうち、昭和四十五年十二月暮れの新潮に最終掲載されたものを読んだときと、おなじ気持のふくらみがあった。
いま、私は豊かである。馥郁という言葉が似合っていると思った。
この三十年間以上の時間、途中何度も読み返し、最初の感慨を得られず、骨と皮のような第四作と人も我も思いこんでいた作品が、これほど今夜(今朝)ゆったりとした読後感をもたらすとは、思っても見なかった。
作品の最初と最後とが、綺麗に繋がっていて、それは私の青年期初期と、今の時代とを丁寧に結びつけている。
文学芸術の力とは、偉大なものである。
今宵は、本多繁邦の夢をみるのだろう。
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