情報図書館学・情報サービス:未来の図書館/原田勝
目次
まえがき
第一章 「未来の図書館」論
1 図書館の改革者たち
2 科学者の描いた未来図
3 図書館の終焉?
第二章 情報社会とニューメディア
1 情報社会とは
2 コンピュータとデータ通信
3 ニューメディア
第三章 情報流通の構造
1 一次情報と二次情報
2 各種の情報サービス
3 図書と雑誌
第四章 科学雑誌とそれに代わるもの
1 科学雑誌に対する批判
2 科学情報伝達メディアの機能
3 科学雑誌の補完あるいは代替としての新しいメディア
4 メディア選択の際に考慮すべき要因
第五章 シノプシス誌の誕生
1 一論文を単位とする出版
2 シノプシス誌の出現
3 研究者によるシノプシス誌の受容
4 新しい技術と学術情報の流通
第六章 文献の入手
1 英国図書館文献供給センター
2 全国中央図書館
3 科学博物館図書館
4 ブラッドフォードの提案
5 他の国々の試み
第七章 書誌ユーティリティーと出版情報システム
1 書誌ユーティリティーとは
2 書誌ユーティリティーの業務内容
3 図書館と書誌ユーティリティーの新しい動き
4 取次会社と出版社の努力
第八章 情報検索サービスの発展
1 各種データベースの充実
2 オンライン情報検索の利用
3 分散データベース
4 原論分のオンライン注文
5 全文データベース
第九章 電子出版
1 電子出版の多様性
2 電子出版に関するプロジェクト
3 電子式文献伝送
4 電子図書館
5 電子出版の利点
6 電子出版のもつ問題点
あとがき
索引
冒頭抄(まえがき)
「コンピュータとデータ通信の進歩とともに、これまでの情報流通の方式が大きく変わろうとしている。ニューメディアと総称される各種の新しい情報流通媒体の登場、データ通信網を利用した電子出版や電子式文献伝送の実験などは、グーテンベルクの時代から現在まで長い間にわたって利用されてきた、知識や情報を紙の上に印刷された媒体によって流通させるという方法を、むしろ二次的な伝達手段としてしまう可能性がある。
本書の書名にある『図書館』ということばは、このような知識と情報の流通に関わる機関の総称としてつけられたものである(以下略)」
結語抄(あとがき)
「こうした新しい技術(Mu注:コンピュータと通信技術、ニューメディア技術など)の登場を背景として、現在の図書館の非効率性は、多くの人たちの批判の対象になっている。しかし、どのような変化が起こっても、これまで長年にわたって受けつがれてきた知識や、専門家の経験が、ある日突然無になることはないだろう。ただ、社会環境の変化と技術の進歩に適応するためには、視点の転換が必要である。これまで守ってきた技術に執着するのではなく、その技術は何を目的として導入されたかを考えることが、そうした視点の転換に役立つかもしれない。」
Mu注記
この図書は1987年刊初版となっている。私は『図書館/情報ネットワーク論』1990年刊、を読んでから後に本書を手にした。前後が逆転した。本書は部数が少なく、入手に手間取った記憶がある。
一気に読んで、清冽な感動を新たにした。
何故か。
難解でわかりにくい、技術的な内容も丁寧に平明に説き明かしてあった。原田が工学部出身の研究者だった事実もあったと思う。私見にすぎぬが、工学系の研究者の一本は執筆に神経質なほど気を配る事例が多い。いわゆる人文社会系の研究者は、不思議なほど不明瞭な文章を書く人が多い。一種のアイロニーであろうか。
さておき。
印象に残っているのは、第一章の2「科学者の描いた未来図」である。ブッシュのメメックス、リックライダーの「未来の図書館」を読んでいて、まるでSFのような世界がまじめに取り上げてある、ということに驚いた。しかし、現代はそれが普通のことになっている。原田が解りやすく紹介して、わずか20年に満たない、今日のことである。
しかし、原田の紹介が古びたとはまったく思わない。おびただしい、原理原則への考究、解説をよめば、原田がいつも本質を突いていたことが、今にして解る。
『未来の図書館』とは、そういう図書であった。
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コメント
1987年に、原田先生は、もうこんな図書を書いておられたんですか・・。
内容を読んでいないので、Muさん、少し教えていただけませんか?
この未来の図書館のイメージは、今の「青空文庫」といった電子図書館のことも含まれるのでしょうか?
書誌だけでなく、テキスト全文のデーターべースをオンラインで提供するということも含まれているのかな?と思いました。
そんなとき、司書の仕事には、データ入力者としての立場も加えられるのだろうか?と思いました。でも、それじゃあ、司書なんてつまらない仕事になってしまうかも・・。
投稿: wd | 2004年7月15日 (木) 19時37分
追伸
司書なんて、という言葉に誤解があってはと思いまして・・。
どれだけ情報が、便利に流通されるようになったとしても、現物の図書には、かなわないと思います。図書の装幀や、その本の重みなど、実際にさわってでないとわからないものを、大切にしたいです。
そんな時、図書へと道案内してくれる、司書の仕事は、これからの時代だからこそ、大切なんだと思います。
未来の図書館での司書の位置づけみたいなものを、どう考えていったらいいのかしら・・、とふと思いました。
投稿: wd | 2004年7月15日 (木) 22時01分
wdさん
しばしお待ち下さい、明日昼まで。
図書が大学にありまして、原田先生がどこまで詳細に電子図書館を書かれていたのか、確認したかったのです。
つまり、青空文庫を、原田先生が当時の考えではどうだったのか(そのころは青空は無かったです)、ことは研究領域なので私もしらじらしい類推はしたくないのです。
なお、私は青空文庫を重宝し、研究にも使わせてもらっています。しかしながら、私の考えでは、青空文庫を電子図書館モデルとしてとらえることはできません。
電子図書館とは、含まれたデータに、構造的な工夫があって初めてそう認定したいわけです。構造とは、知識の階層性や知識の連関を設定したものです。
分かりやすくもうしますと、MuBlogは私の考える、将来ありうべき電子図書館モデルを想定し、日々構築しているのです。
ではこの件、明日以降。
投稿: Mu | 2004年7月15日 (木) 22時13分
WDさん
なかなか、気の利いた回答ができないので、しばらくこの件はおいておきましょう。
原田先生の作品は、あと数点、記しておきたいのがあるので、それをぽつぽつすませていきますね。
なんとなく、本職関係は、記録もコメントも、汗がでますですね。
投稿: Mu | 2004年7月17日 (土) 23時10分
Muさんへ
汗が出るなんて、おっしゃられると、こちらが恐縮してしまいマスデス。
電子図書館とういものには、知識の蓄積・検索だけでなく、知識の階層性や連関が必要である、という説明で、よくわかりました。
だから、MuBlogでは、MuBlog内でのトラックバックが、重要なんですね。
的確なご説明、ありがとうございました。
投稿: wd | 2004年7月20日 (火) 10時00分
WDさん
さきほど、本日会議終了。まずまず。
明日にそなえる一刻です。
さて、
トラックバックを自己参照的に使用しているのは、相当に気持ちを込めてております。おそらく、blogが日記を越えて電子図書館になるのは、他人との相互参照よりも、一つのblog内での自己参照の工夫と思います。その工夫の要点は、これまでのリンクだけではなくて、受け取り記事自体が、リンクされたことを認知できるトラックバックにあると思っております。
ともあれ、そう言う点を指摘されて、実に嬉しいです。
投稿: Mu | 2004年7月20日 (火) 15時36分