« 米国・文学・諜報:神々の最後の聖戦/デイヴィッド・イグネイシアス | トップページ | 2004年5月18(火)曇り:図書館建築 »

2004年5月17日 (月)

『神々の最後の聖戦/イグネイシアス』

 『神々の最後の聖戦』イグネイシアスを、何もしらぬまに買ったのは帯の惹句がユーモラスに思えたからだった。

「スパイにだけはなるなよ」

 読んだのは2000年だったと思う。独特の味わいだった。重くはなかった。軽くもなかった。また読みたいと思った。
 スパイを神々だなんて描写するところに、もうおかしみがある。
 何かの映画で、血も凍る残忍なKGIスパイが、靴をぬいで抜き足差し足、ふと見ると靴下に大きな穴があいていた。そんなおもしろさを予感した。もちろん、そんな映画があったのかどうか?
 どうしても引用したくなった。人にも勧めたいが、私がなにに惹かれたのか、ときどきわからなくなって、ただ「おもしろかった。もう一度よまなきゃ」という印象だけが思い出される。
 そして、その引用が、いまだに何が面白いのだか、わからなくなる。

「スパイにだけはなるなよ」アンナの父が死ぬ数ヶ月前にそう言った。日曜日の午後、二度目にして最後の心臓発作を起こす少し前で、アンナは父が好みそうな、『オスマン・トルコの政治』という本を読んで聞かせていた。(略)
「スパイに関しては」とアンナは読み上げた。「完璧なる監視と注意深さが肝要である。報酬は、喜ばしい知らせをもたらしたスパイと同様に、不安を喚起する情報をもたらしたスパイにも与えられるべきである。(略)」
「それは、絶対にいかん!」ふいに父が声をあげた。 「え?」 「スパイにだけはなるなよ」父の語調があまりに鋭く、力がこもっているので、アンナはいぶかしんだ。 「どうして?」 「いいから言うことを聞くんだ」バーンズ大使は言い切った。「国際問題に関心があるなら、外交畑に進みなさい」

 娘アンナは、父の遺言にもかかわらず、CIA新人工作員として精を出している。
 父は昔大使までつとめ、それ以前は第二次大戦中海軍軍人だった。

 こういう設定の中で父が「スパイにだけはなるなよ」と言った、アンナはその深い意味がいまさら分かる経験を積んだ。
 さて、私はなにに、わすれえぬほどのおかしみをあじわったのだろうか。
 引用はしてみたが、まだ、分かりやすく言えない。
 もう一度読む羽目になってしまった。
 一粒で二度味わえる。

|

« 米国・文学・諜報:神々の最後の聖戦/デイヴィッド・イグネイシアス | トップページ | 2004年5月18(火)曇り:図書館建築 »

読書余香」カテゴリの記事

コメント

自注
 おかしみの一端が今朝わかった。
 私はいま大学教授を装っている。

 で、ある日エドルンに、こういったとしよう。
「エドルンや、図書館員にだけはなるな!」
あるいは、
「エドルンや、作家の真似事だけはするな!」
あるいは、
「エドルンや、社長にだけはなるな!」

 うむ。スパイほどの力強さはないな。
 はて。

投稿: Mu | 2004年5月18日 (火) 09時56分

先輩! その社長にだけはなるなよ? 気になるな~。昔のソフトハウス時代の御自分の御経験の話としておきましょ。確かに100円ショップで自動の傘が売られている時代や! 厳しい時代が来たもんやね~~。

投稿: jo | 2004年5月18日 (火) 13時01分

JOさん、さっき葛野に入室しました。社長、役員出勤でんなぁ。
 (一言:社長と一緒でな、24時間自己管理、研究、方針策定実行、から免れないのが教授でっせ!)
 くだんの「社長にだけはなるなよ!」は、JOさんが浮かんでおった。それとは別に、「頭」のしんどさは、何が問題で、どう解いて、どういう方向へ走るのかにげるのか、ぜんぶ自分で判断せなあかんのがしんどいね。
 100円ショップだが、さっき寄ってきた。100円のA4透明ボックスを、今朝で50箱買ったことになる。大抵10箱単位。
 文庫や書類を、一時的(まあ数年単位の一時的)にまとめて扱った方が便利なときに使おうとおもって。
 たとえば、卑弥呼関係の新書や文庫をまとめておく。とかね。

投稿: Mu | 2004年5月18日 (火) 13時13分

先生、すごく面白そうです!!ですが「スパイにだけはなるなよ」と言われたら、よけい興味を引きますね。「食べるな、毒だぞ」と和尚が言った水あめを小坊主さんが食べてしまったように。まあ「スパイにはなれ」と言われても簡単になれるもんじゃないですが。

投稿: 羊 | 2004年5月19日 (水) 22時36分

羊さん
 私は最近もNHKのスペシャルDVD「国際スパイ・ゾルゲ」をエドルン(一体誰のこと?)君にプレゼントしてもらって、じっくり見ました。本当はモックンの出ていた「ゾルゲ」も見たかったのですが。
 ああ、たしかに私は一時期スパイになりたかった、20代のころ。卒業を前にして就職を悩んでいた頃のことです。しかし調べてみるとスパイってのは、余程の知力体力精神力がないと、だめのようです。諦めました。(たとえば、CIAなんかに入るのは、ものすごっくエリートじゃないと、むりですよね)
 この本はお薦めです。とくにトルコ、イスタンブールあの近辺の様子や、オスマントルコの歴史がとても、おもしろく上手に描かれておりました。

投稿: Mu | 2004年5月20日 (木) 05時16分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『神々の最後の聖戦/イグネイシアス』:

« 米国・文学・諜報:神々の最後の聖戦/デイヴィッド・イグネイシアス | トップページ | 2004年5月18(火)曇り:図書館建築 »