2004年5月18(火)曇り:図書館建築
大学では図書館司書の卵を育てている。
どんな風にして学生に教育するかはずっと考え込んできた。
対象はほとんど20を越えた成人女性である。だから、世間知、世渡りなんかは私よりも数等上手な学生もいる。一体この20年間なにを考え、どうやって生きてきたのか、と罵声をあびせたくなる学生もいる。
老成しきったような大人と、無垢きわまりない少女と、不良少女と、そしてどこからみても秀才と、るつぼのような世界である。日々顔付きも変わる。個性なんかどこにある、100人ののっぺらぼうの朝もあれば、これだけの違いがどうしてあるのか、百花繚乱きらきらしい昼もある。
どんな場合にも、物事をひとくくりにして、要約して捉えるのは大事なことだが、一方で、まとめきれない、個々それぞれの特性を把握しないと、にっちもさっちもいかないだけじゃなく、教育が人を斬る場合もある。
大学によっては、そして大教授によっては、私の悩みから遠い先生もいる。大学院が主になった世界では、教授の講義はかけねなく、その時間、その内容が、世界で初めて、たった一つのひりひりするような緊張にあふれたものもある。今は知らないが、そういう大学では、教授は週に一回授業をするので精一杯、といっても過言ではない。その時間が世界で一つ、となると本当のところをいえば、そんな内容は年に数回しかできない。
めったにないかもしれない。
でもある。
私の中年期以降の経験では、以前記した長尾博士の講義がそうだった。そして内輪の講演会だったが、西夏文字にかかわる西田龍雄博士の講義がそうだった。聞き終わると、脳の疲労が極限まで達していた。テクニカルタームに幻惑されるのではなくて、いまとなっては骨太の論理が、その論理が航跡として定着するまでの綱渡りのような実験や実証の積み重ねに身がおののいた。追体験すると頭が爆発しそうな内容だった。先人未踏の道を歩くというのはそういうことなんだろう。地図を作る、その過程を学生が追体験する。それが、そういう大学や大教授の講義である。
地図はどこにも売っていない、眼前の教授がいま黒板に地図を書いているのだ。
私は共同演習というの考案し実施してきた。詳細はまだまとめてもいないし、要諦を人に伝えるのも億劫である。しかしこの3年間ほどは、葛野図書倶楽部2001をつくり、そこで授業支援をしてくれるTA達には折りにふれて方法論を伝えてきた。
その中で一番おもしろいのは「近未来の図書館を設計し、作る」(情報図書館学)である。これはTAも私も、そして比較的多くの学生がおもしろがってくれている。
2000年ころの彼女らの作品を要約した記事を掲載する。
そのころの、学生達のテーマをあげておく。
私は、別の世界があれば、建築設計家になりたかったのかもしれない。森博嗣+阿竹克人『アンチ・ハウス』(中央公論社、2003)をうっとりながめたり、TVで森氏の風変わりな、それでいて1500万円のガレージ+工作室+書斎を見て、古墳をつくりたくなるのも、無理はない。と、自らを落ち着かせている。
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コメント
「地図を作る、その過程を学生が追体験する。」そういう授業を受けてきたかもしれない、と思いました。一流の大学、一流の教授の下では、なかったけれど、そんな講義をしてくださった恩師の顔が数名浮かびました。
緊張感あふれる講義では、「漢文演習」。土曜一時限目。国文科ほとんどの学生が、金曜日夜8時まで大学図書館に残り、手分けして漢文テキストの一字、一字を「大漢和字典」で調べた。「論語」「史記」・・。一人でやっても、間に合わない。その授業で「やってきていません。」「調べてきていません。」の言葉は許されなかった・・。
「あなた、国文科やめたらどうですか。」先生の冷静な一言がグサリと突き刺さる。
演習担当にあたろうものなら、何週間も前から図書館にこもり、前日は夜8時まで図書館にいて、その後、家で担当者が合宿、徹夜勉強。それでも、当日演習の時にうまく答えられなくて、落ち込むことも・・。そんな、昔のことを思い出しました。
「『春の雪』の小説構造可視化」については、プリントアウトしてゆっくり読んでから、コメントします。数点感じるところ、ありました。
投稿: wd | 2004年5月18日 (火) 11時17分
学生諸君の図書館建設案、少し拝見させて頂きました。地球と月の建物には笑って(失礼)しまいました。発想が面白いですね。アフリカに2フロアー設けられている所が多分この図書館の
肝心なる主張なんでしょうね。細かいところに主張を感じました。しかし、膨大な経費がかかるんですね~維持費は本の購入費用と職員の労務費でしょうか? 損益計算書はどないな案配であるか? 私の家内も図書館には大変お世話になっています。但し、ミステリー小説と整理学の本ばかりですがね。
投稿: jo | 2004年5月18日 (火) 11時37分
JOさん
この共同作業の、守るべきルールは、魔法をつかわないこと。それにつきる。
だから、損益決算書概念がゼロ。
むつかしいところだけどね。
社会施設は、損益決算を取り入れると成り立たないところがあってね。
世の中卑弥呼好きばかりじゃないから、博物館なんて、よほど目玉を特別展でなんどもやらないと、維持も給与も絶対にだせない。
東博だって、週日の午前中の、常設展なんて、閑散としている。
図書館もな。
儲け話を考え出したとたんに、頓挫する。一応近代図書館は、無料で、全公開が基本なんだ。
目に見える損益がだしにくい。
悩むところですな。
せめて、授業では、何兆円かけてもよい、何百年かけてもよいから、理想の図書館を作れ! と、言っているのだが。
・・・
投稿: Mu | 2004年5月18日 (火) 13時20分
WDさん、こんにちは
いやはや、大学生と言っても様々な話の、これは典型ですね。
いつごろ学生だったのか、想像しますが(失礼)、まだ学生が神々だったころのように推察します。すくなくとも、ここ5年は、そこまで髪振り乱さなくても、ゼミ、卒論が通る時代になったようです。
現代は変化が激しいから、大学に求める内容も、学生によって様々です。様々に答えるのはしんどいですね。学生を軽くみるととんでもなく恥をかくし(すさまじい想いで司書を考える学生もいる)、真剣に講義しすぎて、大半が眠る時もある。融通無碍に、現実に対応する訓練をしないと、この年になっても破綻します。
ところで三島論、お気づきになりましたか。あのてのシリーズは、わがHPでもアクセスが常時高いです。卒論の周辺資料にする学生がおるのかもしれない(葛野では三島読者はまれです)。しかし、研究者の孤独っていう言葉があって。時々、無意味なことを延々とやっているという、事実に直面するものです。
善し悪しべつにして、いずれコメントくださると非常にうれしいです。
今夏に4部作の最終「天人五衰」をまとめて、年末か来夏には、「豊饒の海」全体を論立てして、しばらく三島さんからは離れる予定です。
そのためにも、春の雪にかんする、WDさんのコメントは、ぜひいただきたいです。
よろしく。
投稿: Mu | 2004年5月18日 (火) 13時37分
先生、「近未来の図書館」見ました。すごく楽しいですね。「2000年ころの彼女らの作品」では図書館はテーマパークのように体感して楽しむ場所という発想が多いのですね。”図書館では静かに”とはもう言わなくなりますね。私が学生だったころに自分が理想としていた図書館って何だったか思い出してみたんです。例えばヘレン・ケラーのように聴覚も視覚も不自由であったとしても、五感を使って情報を取り入れれるようなそういう図書館(五感を使うとなると図書では無理か・・。)があればいいなと思っていました。ですがそう思うだけで具体的な考えはないんです。あまり発想豊かではないですね。それにしても、リラーチェという乗り物、乗ってみたいです。
投稿: 羊 | 2004年5月19日 (水) 22時29分
羊さん
語ればながいことなので、手短に。
羊さん達の時代には、このテーマはなかったです。2000年3月卒業生あたりからだと記憶しています(調べればすぐわかるというのにね)
そもそもは、ノリのいい学生達に「忍者屋敷」を作らせたかったのです。時代劇図書館などのテーマでかすりはしたのですが、まだできていません。
模型を作らせたかったのです。歴史図書館というテーマでは永久保存の模型ができましたが。
ヘレンケラーさんをイメージするなら、2004年3月卒業生たちが3年生時に作った「癒し図書館」があります。というより、その時のグループなら、羊さんの特注に応じられるでしょう。
テーマパーク系図書館ですか。そういうノリはありますね。私がTDLもUSJも未体験という、なんちゅうか、コンプレックスがあって、学生達に無意識にそういうものを作らせようとするのかもしれません。20代に、TDLやUSJがあったなら、いりびたっていたことでしょう。ちなみに、奈良のドリームランドっていうのは、何度も行ったことがあるんです。
教育の根底が教授のコンプレックスでゆがめられている、よい事例でしょう(笑)
手短なつもりが、長くなった。ぜひ大学院に社会人入学して、もう一度、「情報図書館学」を科目履修で登録し、忍者屋敷図書館を作って下さいな。(ああ、ヘレンケラー図書館でしたね)
投稿: Mu | 2004年5月20日 (木) 05時09分
大学院ですか。それも面白そうですね。なんだか本当に懐かしくなってきました。近いうちに一度、研究室を訪れようかと思います。
投稿: 羊 | 2004年5月20日 (木) 10時10分
羊さん
1.大学院:ご卒業の学科は学部になって、大学院修士もできました。
2.「不眠症の羊」のカウンセリングだったりしたら、臨床心理のほうに回しますが、トンデモ話、スパイ小説話なら、どうぞお気軽に。
3.一応ムアディヴ皇帝ですので、それなりの貢ぎ物をご用意下さい。一般に、「あたりめ」とか「珈琲メーカー用に挽いた、ブルーマウンテン珈琲、キロ単位(嘘)」などが通例ですね。当方の引き出物は、倍する、三角縁神獣鏡の写真葉書数枚などいかがでしょうかねぇ。
投稿: Mu | 2004年5月20日 (木) 12時18分
皇帝閣下、心得ました。謁見目的ですが、トンデモ話教授ということでお願いいたします。
投稿: 羊 | 2004年5月20日 (木) 16時37分
羊さん
あははっはーは。
では、葛野トンデモ倶楽部2004をつくりましょう。
局長は、羊 百匹子さん。
もろもろの手下は、後日集めておいてください。
入会金無料、年会費2000円、
足抜き料は本来切腹ですが、まけて、うん十万両。
最初の目的は「京都葛野の女子大は、昔、大古墳じゃった」くらいが簡単でよろしな。
再見
投稿: Mu | 2004年5月20日 (木) 16時55分
閣下、わたくしが局長ですか?私には任が重過ぎます。丁重にお断りいたします。
考えたのですが、Mu先生はお忙しい方です。簡単にお会いできるわけないですよね。どこかでばったり出会う偶然を待つ方がいいかもしれません。(先生の研究室へ行くのはやっぱり緊張します。)
投稿: 羊 | 2004年5月20日 (木) 22時06分
羊さん
なかなかに皇帝拝謁は難しいことでしょうね(笑)。遣葛野使(けん・かどのし)船を何度も企て、確率5%が葛野史の実情です。皇帝は無闇に遊行しませんから偶然は無理でしょうが、夏宮の季節には様々な催し事もありますから、その折りになさればよろしいかと。
投稿: Mu | 2004年5月21日 (金) 02時30分
はい、わかりました。楽しみにしています。
投稿: 羊 | 2004年5月21日 (金) 19時51分
羊さん、お気楽に。
投稿: Mu | 2004年5月21日 (金) 20時38分